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2024.01.31

学生広報チームが密着!鳥人間部 T-MIT 〜2023年度執行代インタビュー編〜

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2023年7月29~30日に滋賀県彦根市の琵琶湖東岸で開催された鳥人間コンテスト2023の人力プロペラ機部門に出場し、第5位、飛行距離2115.26mという結果を残した鳥人間部T-MIT。リサイクルを意識した機体制作の取り組み等が評価され環境賞も受賞した。
学生広報チームは大会前年の12月から数回にわたり彼らを取材してきた。
取材の集大成として、鳥人間コンテスト2023をもって引退した2023年度執行代である以下の5名に、T-MITに捧げた2年半についてお話を伺った。

星瑛徳さん/代表・駆動班主任(システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科 3年)
岩竹駿さん/電装班主任(システムデザイン学部 電子情報システム工学科 3年)
大森愛さん/設計(システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科 3年)
高橋優心さん/設計・フレーム班主任・フェアリング班主任(システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科 3年)
長川稜希さん/パイロット・翼班主任(システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科 3年)
※役職は鳥人間コンテスト2023参加当時のもの。

前回T-MITに取材した際の記事もぜひ併せてご覧ください。
熱い思いと期待を乗せて大空へ!-鳥人間部T-MIT-
https://metro-noix.tmu.ac.jp/student_press/214.html

学生広報チームが密着!鳥人間部T-MIT〜回転試験編〜
https://metro-noix.tmu.ac.jp/student_press/0092.html
学生広報チームが密着!鳥人間部T-MIT〜ジムテストフライト編〜
https://metro-noix.tmu.ac.jp/student_press/0094.html

学生広報チーム) 鳥人間コンテストへの出場、お疲れ様でした!
そして、執行代として駆け抜けた1年間、お疲れ様でした!
引退してから数ヶ月経ちましたが、今はどのように過ごしていますか?

星さん) これまではずっと作業場に籠っていたので、鳥人間部に費やした2年半の間にできなかったことをやっています(笑)

岩竹さん) 常に作業に追われ、不安がつきまとっていましたが、不安がなくなりました。

高橋さん) 僕は今でも頻繁に作業場に行って後輩の相談に乗っています。まだまだ現役のような感じですね(笑)


学生広報チーム) 入部してからの約2年半、本当にT-MITでの活動に打ち込んできたのですね…!
皆さんがT-MITに入部したきっかけは何ですか?

大森さん) 入学前から鳥人間コンテストに対する強い憧れがあり、新歓の前から入部を決めていました。

長川さん) 僕は、パイロットへの漠然とした憧れと、「空を飛びたい」という思いがありました。


学生広報チーム) 憧れのT-MITでの活動ですが、執行代になるまでは先輩の指示のもと機体の製作を手伝う活動が多かったのではないかと思います。振り返ってみていかがですか?

高橋さん) 入部して間もない頃は、ただただ先輩の作業を見ているだけでした。

星さん) 慣れないことも多く大変でしたが、初めて目の前で機体が飛んだのを見た瞬間は感動しましたね。

岩竹さん) 先輩の指示のもと機体製作に携わることができるようになってからは、知識を蓄えるためにひたすら勉強していました。

高橋さん) 作業場に行って先輩の作業を実際に見たり、自分で手を動かしたりすることが一番勉強になるので、できるだけ作業場に行くようにしていました。下積み時代ですね。


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▲電装班の主任を務めた岩竹さん。
機体の飛行速度や高度、傾きなどを計測して表示させる装置や、パイロットが尾翼を動かす装置を製作した。


学生広報チーム) そのような下積み時代を経て、昨年の夏からは皆さんが執行代となり機体の製作を進めてきたわけですが、2023年度の目標は何でしたか?

大森さん) 2022年時点での鳥人間コンテスト人力プロペラ機ディスタンス部門での学生記録が約38kmであったことから、「40km飛行を達成して学生記録を更新すること」を目標としていました。
私は機体の空力設計を担当していたのですが、40km飛行を達成するためには、機体の大幅な軽量化と駆動効率の向上を実現させなければならないと感じていたため、これまで先輩から引き継がれてきた設計を思い切って見直しました。


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▲T-MIT史上初の女性設計者となった大森さん。
精度の高い機体を製作したいという一心で、効率の良い翼型を短時間で生成するプログラムを作成し、パイロットの要求出力(プロペラを回すために必要なペダルを漕ぐ力)の20%低減に成功した。


学生広報チーム) 新しい試みにはリスクもあったと思いますが、どのような思いでしたか?

大森さん) 部員に無理させたくないという思いもありましたが、今変えなければ、これ以上飛行距離を伸ばすことは難しいとも思っていました。

高橋さん) やってみるしかないと思いました。挑戦して万が一失敗しても、どうにかしてリカバリーするつもりでした。


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▲機体の骨格部分とフェアリング(コックピット部分)の設計を担当した高橋さん。
人力飛行機の核となる部分であるため、破損してしまわないように丈夫でありながらも、軽量化を実現する構造にこだわった。


学生広報チーム) 40km飛行への熱意と強い覚悟があってこその挑戦だったのですね!
挑戦を実現させるためには、部員の協力が必要不可欠だったと思いますが、星さんは代表として意識したことはありますか?

星さん) 初めのうちは、後輩の士気を高めることに苦労しました。活動をするにあたって、わからないことがあると楽しく活動できないと思ったので、毎回の部会で鳥人間コンテストや人力プロペラ機の製作についての知識を共有するように意識しました。また、鳥人間コンテストで共に闘う他の出場チームの作業場に、後輩と一緒に積極的に見学に行くようにしていました。


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▲代表と駆動班の主任を務めた星さん。
部員が製作した部品が組み合わさって機体が動き、その機体に仲間が乗って飛んでいる光景を目の当たりにしたときの感動は忘れられない、と熱く語る。


学生広報チーム) 後輩の士気の鼓舞に加え、他のチームとの交流にも力を入れていたのですね。
そして何と言っても、人力プロペラ機と言えばパイロットの存在が欠かせませんよね!長川さんは、パイロットに決まったときはどのような思いでしたか?

長川さん) 部員が機体製作に懸命に励んでいる姿を見て刺激を受け、自分もパイロットとして頑張らないといけないなと身が引き締まる思いでした。


学生広報チーム) 長川さんは、ロードバイクでエベレストの標高8848m分の坂道を上り下りする「エベレスティング」を23時間かけて達成したと聞きました…!

長川さん) はい、本当に辛かったです…もう二度とやりたくないですね(笑)エベレスティングのときには、部員が差し入れをくれたり、先輩が一緒に走行してくれたり、家族が労いの言葉をかけてくれました。たくさんの人が応援してくれたのが嬉しかったです。


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▲パイロットと翼班の主任を務めた長川さん。
強靭なメンタルで過酷なトレーニングを続けたことで驚異の成長を遂げ、部員からは「トレーニングの鬼」と呼ばれる。


学生広報チーム) 6月から7月にかけて、飛行場で機体を押し出す練習をするテストフライトが行われましたよね。テストフライトについて具体的に教えてください。

大森さん) 前日の夜に日野キャンパスを出発し、深夜から明け方にかけて機体を組み立て、早朝にテストフライトを行う、という過酷なスケジュールでした。機体の助走時の押し出しがうまくいっているか、機体に問題がないか、パイロットに負荷がかかりすぎていないかなどを確認しながら、徐々に飛距離を伸ばしていく作業を繰り返しました。
テストフライトは6日程実施し、最終的には合計60本ほどフライトの練習をしました。


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▲テストフライトは部員総出で実施する。
これまで製作してきた大切な機体を守るため、機体の扱いは慎重に。


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▲飛行場を使用できる時間は限られているため、未明のうちから組み立て作業を開始し、問題がないか念入りに確認する。


学生広報チーム) テストフライトで、自分たちが製作した機体が飛んだ瞬間を初めて目の当たりにしてみていかがでしたか?

星さん) 機体を背後から押し出して飛んでいったときは感動しました!

長川さん) 実際に機体が浮き、安定した飛行ができるようになったのはテストフライトを始めてから約30本目でした。初めて機体が浮いた瞬間は興奮しましたね。

大森さん) 安定した飛行ができるまで、重心の位置を変えたり、翼の角度を変えたりと試行錯誤しました。


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▲機体が浮き、パイロットの長川さんが懸命にペダルを漕いで飛距離を伸ばす。


学生広報チーム) 過酷なスケジュールの中、試行錯誤を重ねてきたのですね…!
そしてついに迎えた本番。私は残念ながら会場である琵琶湖には行けませんでしたが、リアルタイム配信を見ていました!フライト前はどのような雰囲気でしたか?

岩竹さん) プラットフォーム上での機体の組み立ては、特にトラブルもなくうまくいきました。

星さん) テストフライトのときに、一つずつ問題点を潰していったことが活きたと思います。

長川さん) フライト前に、昨年度パイロットを務めた先輩から「猿になった気持ちで何も考えずに漕ぐだけだ!」と鼓舞されました。とにかく漕ぐしかない、という思いでした。


学生広報チーム) プラットフォームからT-MITの機体である「VEGA」が飛び出していったときは私も感動しました!しかし、風の影響が強く、難しいフライトだったのではないかと思いますが、いかがでしたか?

長川さん) プラットフォームは高さ10mほどなのですが、プラットフォームを飛び出して機体が浮いた直後は、予想以上の高さに驚いてしまいました(笑)そして、琵琶湖の上を飛んでいることに興奮しました。ただ、風で岸側に大きく流されてしまい、軌道を修正するのが大変でした。手元にある機器で尾翼を操作し機体の方向を転換するのですが、ペダルを漕ぎながら操作をして調整することが難しく、悔しさが残りました。

星さん) 僕はボートマンとして、機体と伴走するボートに乗って操作指示を出していたのですが、テストフライトと本番の飛行は全く違うので正解がわからず、苦戦しました。それと同時に、仲間が乗って飛んでいる「VEGA」を一番近くで見て、とても感動していました…!着水後はパイロットの長川に「頑張ったな!」と声をかけました。

長川さん) 僕はかなり体力を消耗していたので、着水後の記憶がありません…(笑)


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▲体力の消耗を最小限に抑えるためには、機体の高度も重要になる。高度が上がりすぎると、パイロットの要求出力は高まると同時に、空中で機体が大破したときのリスクも高まる。


学生広報チーム) 私も配信を見ていて、皆さんの思いを乗せて「VEGA」が飛んでいると思うと涙が出ました。パイロットとボートマン以外の部員の皆さんはプラットフォーム上から機体を見守っていたと思いますが、いかがでしたか?

高橋さん) 機体を押し出してからは見守ることしかできませんでしたが、機体がすぐに着水してしまうことなく飛行できたことへの安堵感がありました。また、着水の衝撃でバラバラになって戻った機体を見たときは、あれだけ時間をかけて製作した機体が一瞬で壊れてしまったことに儚さを感じましたね…。


学生広報チーム) 機体がいかに繊細に製作されているのかがわかりますね…。
みなさんのこだわりが詰まった機体だったと思います。今期の執行代は5人と歴代と比べても人数が少ないとのことで、大変だったことも多いのではないでしょうか?

星さん) そうですね。でも、この5人だからこの機体を設計できたとも思っています。大森と高橋が思い切って設計を見直す決断をしてくれて、僕を含めた残りの3人が思いを受け止め必死についていったからこそできたのが「VEGA」です。

高橋さん) 明るく一生懸命ついてきてくれた後輩たちの存在も必要不可欠でした。

大森さん) いつかは設計を見直す必要があると思っていたので、私たちの代で見直すことができてよかったと思っています。


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▲取材時の2023年度執行代の5人。「この5人じゃなきゃできなかった」という星さん(代表)の言葉が印象的だった。


学生広報チーム) 結果には悔しさが残るかもしれませんが、この5人で起こした大きな変革は、今後のT-MITの活躍になくてはならないものだったのですね!
最後に、T-MITを引退したみなさんが今後成し遂げたいことを教えてください。

長川さん) 実は、パイロットのトレーニングをしているうちに自転車にハマってしまいました(笑)今の密かな夢は、来年開催される自転車の大会に出場することです。

岩竹さん) 僕は、T-MITの電装班で活動して改めてものづくりのおもしろさに気付いたので、もっとシステムの設計をしてみたいです。

大森さん) 私もT-MITで培ってきた設計の技術をもっと磨いていきたいです。

高橋さん) 僕はまずは大学院進学の勉強を頑張ります…。

星さん) 大学院進学の勉強は5人とも逃れられないですね(笑)僕は、代表を務めてからプロジェクトマネジメントへの興味が湧いたので、今後は鳥人間関係の交流会の運営に携わっていきたいです。


学生広報チーム) 約1年間、みなさんを取材できたこと本当に嬉しかったです!改めて、ありがとうございました!

星さん) T-MITはこれからも進化し続けます!応援よろしくお願いします!


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40km飛行という夢を実現するために、大きな変革を起こした2023年度執行代。
たった1回のフライトのために、彼らはどれだけ時間をかけてきたのだろう。どれだけの熱量を注いできたのだろう。部員の熱い想いと期待を乗せた機体がプラットフォームから飛び出していき、一期一会の風を味方につけて琵琶湖の空を飛んでいく光景は、過酷な日々を乗り越えた彼らにしか見られない。
悔しくも40km飛行は達成できなかったが、2023年度執行代が起こした変革は、今後のT-MITにとって大きな一歩になったに違いない。2023年度執行代が果たせなかった思いを後輩たちが引き継ぎ、いつか必ず学生記録を更新してくれるだろう。
今後のT-MITの活躍に期待したい。

【取材・文:人文社会学部 人間社会学科 綾桜子(学生広報チーム)】

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