地理情報科学で将来の自然災害を予測する
東京都立大学公式Twitter(@TMU_PR)上で、#都立大の先生 というハッシュタグをつけて学生広報チームメンバーが都立大の先生を紹介する企画を8月~9月に行いました。本記事はTwitterには掲載しきれなかった先生へのインタビュー内容等をまとめたものです。Twitterの投稿も併せてご覧ください!
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都立大にはどのような先生方がいるのか、その先生方がどのような研究をしていて、またどのような授業をしているのか、紹介したいと思います。今回は都市環境学部の中山大地先生にお話を伺いました。(2022年8月取材、インタビュアー:久保田)
中山先生は自然災害に関する研究をされていると伺いましたが、具体的な研究内容を教えてください。
私はコンピューターを使った自然災害に関する研究をしています。日本の国土は雨や雪が多く、火山や地震などが多いことから世界の国々の中でも自然災害の多い国です。このような自然災害の被害を軽減させるため、地理情報科学という手法を用いて研究を行っています。地理情報科学とは、デジタル化された地図データを用いて、数値シミュレーション・統計解析・機械学習・空間情報処理などの数理的な分析を行い、原因と結果の相関関係・因果関係を明らかにする手法です。これにより、例えばどのような地形の場所で土砂災害が発生しやすいか、災害時に避難行動を取る際にどの場所がボトルネックになるか、避難所の収容人数と避難者数のバランスが取れているかなどがわかります。この研究の魅力は、実際に発生した自然災害の原因を探ると共に、将来発生しうる自然災害の予測もできることです。例えば土砂災害がどのような条件の場所で発生したかがわかれば、同じような条件の場所で将来的に土砂災害が発生する可能性があるといえます。
なるほど、災害の多い日本において重要な研究に取り組まれているのですね。中山先生はなぜその研究に取り組もうと考えたのでしょうか。
もともと地理とコンピューターが好きで、両者を組み合わせた勉強がしたいと考えていました。学生時代にGIS(地理情報システム)に出会ったとき、まさにこれが私のやりたかったことだと感じました。その中でも特に地形をコンピューターで扱うことに興味を持ち、大学院時代はコンピューターを用いた地形の理論的な研究を行っていました。しかし理論的な研究はあくまでも理論的なものであり、直接社会に貢献できるものではありません。そこで応用的な研究としてコンピューターを用いた土砂災害の研究を始めました。土砂災害も地形と大きく関係しているため、それまでにやってきた手法が使えたのです。このときの考えは今でも変わっていません。現在は以前に比べれば使えるデータは多くなり分析手法も複雑なものになってきていますが、コンピューターの性能も上がってきているのでかなり手軽に分析ができるようになってきていると思います。次々に出てくる新しいデータや新しい手法を使って研究ができるのは非常に魅力的です。
興味があった2分野を組み合わせた研究だったのですね。今後も新しいデータ等が増えていくかと思いますが、中山先生はどのような研究をする予定ですか?
今後も地理情報科学を用いた自然災害に関する研究を行っていきます。ただ、地理情報科学を取り巻く世界は急速に進歩しています。例えば今までは限られた研究機関でしか使用できなかったデータにインターネット上で誰でもアクセスが可能になったり、高価な専用ソフトウエアを使わなければできなかった分析がフリーのソフトウエアでも可能になったりしたことなどが挙げられます。それどころか、クラウド上のコンピューターを使用すれば手元に高性能なコンピューターがなくても、極論を言ってしまえばインターネットにアクセスできればスマートフォンだけしか持っていなくても高度な分析が誰でもできるようになってきています。いわば「データの民主化」と「分析手法の民主化」が進んでいるのです。このようにデータ・分析手法・コンピューター資源がオープンになってきていることを念頭に、研究成果をオープンにするというポリシーで研究を行っていきます。
時代の移り変わりとともに研究手法も変わっていくのですね…! 話題が少し変わりますが、中山先生は都立大ではどのような授業をしていますか?
主な担当科目は学部2年生後期の地理情報システム実習です。この実習ではGISを用いて避難所の評価を行います。南大沢地区の実際の避難所について、避難所ごとの避難範囲を求め、要避難者の人数を求めます。要避難者数と避難所の収容人数を比較して避難所の評価を行い、避難所の増設プランを作成するというものです。二人一組のグループワークです。
最後に、中山先生が考える都立大の魅力を教えてください。
よく言われる都立大の魅力の一つに少人数教育があります。地理環境学科では3年生に大巡検という現地研究があるのですが、その準備科目として地理環境科学研究法があります。地理環境科学研究法では学生一人ひとりに個別の課題が与えられ、それについての個人指導がなされています。3年生の段階で教員と学生が一対一で定期的なミーティングを持つわけですが、その中で学生は実践を通して地理学的な分析法を習得し、4年生の卒業論文の方針を探っていきます。教員は個々の学生の興味を探り、特性に合った指導を行います。授業や実習では得ることができないオーダーメイドな指導ができることは、都立大の少人数教育ならではの魅力だと思います。