東京都立大公式WEBマガジン
2022.10.21
#都立大の先生(Twitter連動企画)

持続可能な観光に向けて〜 二次交通×観光資源=MaaS 〜

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東京都立大学公式Twitter(@TMU_PR)上で、#都立大の先生 というハッシュタグをつけて学生広報チームメンバーが都立大の先生を紹介する企画を8月~9月に行いました。本記事はTwitterには掲載しきれなかった先生へのインタビュー内容等をまとめたものです。Twitterの投稿も併せてご覧ください!
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今回の#都立大の先生では、都市環境学部観光科学科の清水哲夫先生にインタビューを行いました。インタビューを通じて、持続可能な観光の実現に貢献する交通サービスのあり方が見えてきました!!(2022年8月19日オンラインにて取材)

都市環境学部観光科学科 清水哲夫先生
Q.どのような研究を行っていますか?

A. 交通学の視点から、持続可能な観光を実現する方法論の構築を目指した研究を行っています。持続可能な観光とは、地域の生業、生活文化、コミュニティが観光の力を使って維持され、しかも環境が保全されている状態であることと考えています。

Q.持続可能な観光に交通がどのように関係しているのでしょうか?

A. そもそも観光は生活圏を超える人々の移動により成立するため、地域の観光を考えていく上で交通のシステムやサービスを考えることは付随的に必要となります。観光の視点からは、交通は大きく2つで構成されます。観光客が住んでいるエリアから観光地へ行く“一次交通”と、一次交通で訪れた観光客が地域内を巡るための“二次交通”です。多くの観光地では、自動車ではない一次交通で訪れた観光客が地域を周遊できるよう二次交通整備を重要視しています。現在、私が専門家として協力している地域でも、観光地の経営戦略と絡めて今後どのように二次交通を展開していくべきか議論を進めています。
 日本の大都市近郊の観光地では、これまで自動車での来訪が主流でしたが、最近では環境への配慮の観点から、温室効果ガスの排出量が多い自動車の利用を敬遠する人が一定数出てきたり、高齢者が運転免許を手放したり、そもそも運転免許を持たない若者が増えたりと、観光地まで自動車で来訪しない人が増加するかもしれません。環境負荷軽減に貢献してくれる来訪者にどのような二次交通を提供すべきか真剣に考えるべき時期を迎えたと思います。その鍵となるのがMaaS(Mobility as a Service)だと考えています。皆さんの多くは、公共交通で目的地まで移動する時に、経路検索アプリが提示する複数の経路から最適なものを選択しているでしょう。サービスによっては複数の交通手段や事業者を組み合わせた経路を提示してくれますが、予約、手配や支払をそのままアプリ上で行うことはできません。この課題を解決するために、地域内の全ての交通手段の検索・予約・手配・支払をアプリで一気に行えるようなサービスをMaaSと称して、世界各地でそれが展開されようとしています。観光地でMaaSを実現すれば、観光客が容易に公共交通ベースの二次交通を利用できる環境が整います。
 しかし、公共交通が十分に提供されていない観光地では、単に数少ない公共交通をMaaSに組み込むだけでは満足できる移動環境を提供できません。そこで、移動先でのアトラクションをMaaSに組み込むことを考えます。多くの場合、人は移動先で何かをするために移動するのであって、移動自体を目的としていません。近年発展の目覚ましいIoTのチカラをフルに生かして移動先のアトラクションと移動手段(公共交通ではなく送迎サービスでもいい)の組み合わせを、MaaSアプリを通じて縦横無尽に提供する。場合によっては移動を発生させるためにアトラクションも提案する。これによって需要密度を高めて交通事業の採算性を飛躍的に高めていくことが二次交通問題の本質的解決に通じますし、アトラクションの充実化を通じて生業を活性化することにも通じます。もちろん、温室効果ガス排出量の削減にも貢献するので、持続可能な観光に近づくことができるでしょう。

Q. 観光地でのMaaS導入には、移動手段と移動先のアトラクションをうまく組み合わせることが重要とありましたが、どのような例があるのでしょうか?

A. 自動車が利用できない、自動車だとむしろ不便なアトラクションを軸にMaaSに実装する移動手段を考えるのがわかりやすいと思います。例を2つ挙げると、①飲酒を伴うガストロノミーツーリズム(地域の食、食文化を楽しむ観光)、②アトラクションの開始地点と終了地点で距離が離れているものです。
 まず①については、日本酒やワイン、クラフトビールのような地域で生産するお酒がガストロノミーツーリズムの目玉となることが多いのですが、もちろんお酒を嗜むと運転できないため、地域の一次交通拠点ターミナルや宿泊拠点と酒蔵やワイナリーを結ぶ移動手段を提供する必要があります。
 次に②については、登山、トレッキング、自転車、カヌーなどの移動が伴うアトラクションが挙げられます。自動車で来訪した場合、開始地点まで自動車を取りに戻る必要が出てくるため、無駄な時間を過ごさないためにも移動手段を提供したいところです。

Q. 研究のテーマ設定で意識していることはありますか?

A. 私が専門とする観光や交通の分野では、国や地域に提言を行うスタンスに立つため、具体の観光地に深く入り込んで、当地の観光・交通事業者や行政、あるいは住民組織(地域ステークホルダー)と組んで実践的な研究を展開しなければなりません。地域の方々からすれば、一見すると同じ機能を持つ大学研究者と民間コンサルタント会社を差別化できないと思いますが、研究者の立場として何よりも“新しい”ということが決定的に重要です。どんな細かいことでも取り組んでいる課題が、世界的に見ても新しい、今まで誰も解いていないことが深く関わるための必要条件となります。地域ステークホルダーと議論する中で、彼らから提示された課題のうち、特に新しいもの、誰も解いてないものを抽出して研究として組み立てることを強く意識しています。観光や交通、都市計画の分野の研究者はほぼ同じようなスタンスを持っているのではないでしょうか。

Q. 今後どのような研究を行いたいですか?

A. 現在、グローバルに課題が認識され推進されつつあるカーボン・ニュートラルを観光分野でどのように実現していくのかについて興味があります。ホテルのような施設の場合は狭いエリアに多くの人を集めることができるので、エネルギー利用はある程度効率化できそうです。一方交通では、大都市圏の鉄道のように大勢の人が一度に移動できればエネルギー効率は高いのですが、乗車人数の少ないバスは大して効率的ではなく、航空や自動車は移動距離あたり多くのCO2を排出してしまいます。世界観光機関(UNWTO)が2021年に宣言した「2030年までに観光産業からのCO2排出を半減、2050年までに実質0にする目標」が、現在のモビリティ技術に依存した観光の世界で本当に可能なのか、に本質的な課題意識を持っています。
 もう1つは、あらゆる場所、時間、タイミングで移動したいというニーズに適切な移動手段を提供する、交通学の“レゾンデートル”に関わる課題です。先に紹介したMaaSを通じて交通事業者とアクティビティを提供する観光事業者、ユーザー(旅行者)が絶えずつながっている状態では、いつどのような需要がどこで発生するのか、事前にかなりわかる世界になってきています。スマートフォンがなかった時代では、近い過去の人の移動メカニズムを理解し、それを説明できる行動モデルを構築し、そのモデルを足がかりに将来必要な交通サービスや交通インフラの量を推計し、移動手段の供給計画を立ててきました。この方法はやはり精度はそれほど高くなく、地域全体で見れば大きく外すことはありませんが、旅行者個人レベルではほぼ予測不能でした。
 観光のような個別性の強い行動の場合には、旅行者一人ひとりのレベルまで移動メカニズムを理解していく必要があるかもしれません。例えば、将来自動運転が実用化され、観光地に4人乗りや2人乗りのシェアベースの車両を配備することになった場合、その人数レベルでのニーズを的確に捉えられなければ、効率的な輸送計画は立てられません。ものすごく精度の高い時空間需給マッチングが求められる時代の新しい交通行動予測モデルを、観光科学としてまさに開拓したいと思っています。

Q. 最後に清水先生が考える都立大の魅力について教えてください。

A. 世界的に大都市としての歴史が長い東京は、世界の大都市で現在生じている、またこれから生じうる課題の多くをカバーしていると見ています。また、東京と周辺を併せた首都圏は欧州の先進国レベルの人口と経済力を抱え、この地域の政策の良し悪しは日本や東アジア地域の浮沈にも大きく影響するでしょう。
 東京都は何か難しい政策課題に直面した時に、都立大で対応できる先生を探すことがよくあるようで、私自身、都立大に所属して12年目になりますが、これまでに東京都からの観光や都市整備の関連で多くの依頼を受けています。世界で一番人口の多い都市圏であるメガシティ東京をフィールドに、東京都との強いネットワークで実践ベースのチャレンジングな研究ができること、これが私の感じる都立大最大の魅力です。学生の皆さんもそんな環境を十二分に生かして、世界に影響力のある学びと研究を行ってほしいですね。

【取材・文:都市環境学部観光科学科4年 飛松涼太(学生広報チーム)】

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