「ものづくり」に魅せられて
【2020年3月23日掲載記事】
ー2019課外活動団体紹介⑧(CORE)ー
「支援を受けて、ロケットのクオリティを少しずつ上げていきたい。」そんな思いから学生課の提案公募制度を利用している学生団体がある。日野キャンパスを中心に活動しているCORE―Challengers Of Rocket Engineeringである。
ハイブリッドロケットを製作し、年に3回打ち上げを行っている同団体の活動やものづくりへの想いについて、部員の指田さん、朝野さん、勝部さん(3人とも航空宇宙システム工学科3年)の3人に伺った。
COREとは
COREはその名の通り、首都大学東京で唯一ロケットを製作している学生団体である。一口にロケットと言ってもいくつかの種類に分けられるのであるが、その中でもCOREは「ハイブリッドロケット」と呼ばれるものを製作している。
ハイブリッドロケットとは、ロケットの内でも固体の燃料と液体の酸化剤を使用して打ち上げるものである。しばしばニュースで打ち上げの様子が報じられるような大型のロケットは、構造の複雑さや燃料の扱いにくさゆえに学生にはとても手が出ないものである一方、ハイブリッドロケットは推力こそ劣るものの、学生でも製作しやすいロケットだという。
他の大学にもロケットを製作する団体は存在するが、COREは「エンジンの開発が進んでいるのが売り」(朝野)だという。他大学のロケットには既製品のエンジンを利用しているものが多い中、COREでは自らエンジンの設計加工を行っている。エンジンの設計から手掛ける学生ロケット団体は全国でも数えるほどしかないそうだ。
COREの年間活動
COREの主な活動は年に3回の打ち上げ実験(8月に秋田県で行われる「能代宇宙イベント」と、11月と3月に伊豆大島で行われる「共同打ち上げ実験」)である。メンバーは「機体班」「電装班」「燃焼班」の3つの班に分かれ、打ち上げに向けてそれぞれの視点からロケットを製作している。
ロケット製作の過程の中では「審査会」も行われている。これは現役生の他、卒業生も交えて製作中のロケットについて評価し合う場であり、問題点などを指摘し合う中で機体の設計がブラッシュアップされていくそうだ。
活動時間が限られる中、打ち上げ直前には缶詰めになって作業をすることもあるという。
「ただロケットを設計・製作するだけでなく、期間内、コスト内でロケットを作るというプロジェクトマネジメント能力もものづくりの中で学べます。」(指田・朝野)
▲ かつて製作されたロケットの外枠及び内部部品。年3回の打ち上げ実験に向けて毎回新しいロケットを製作している。
能代宇宙イベントを振り返って
8月の能代宇宙イベントに向けては2機のロケットを製作した。飛翔中の発電やパラシュートの縦向き展開など、2機とも斬新な機構や高度な技術を盛り込んだ意欲作であった。しかし1機は打ち上げには成功したものの機体の回収に失敗、もう1機はエンジン点火に失敗してしまい上手く打ち上がらないという結果に終わってしまった。
「今後改善の余地がたくさんあります。反省ですね。」(指田)
「今回能代には行かなかったのですが、当日トラブルが起きたときに電話がかかってきました。いくら準備をしても、予期せぬトラブルは起こるので、それにどう対応するかという現場力も試されるのがロケットの打ち上げです。」(朝野)
しかし喜ばしい成果もあげることができた。COREが作成した2機のうち1機のチームがMHI賞を受賞したのである。賞はロケット自体の打ち上げ結果の善し悪しの他、団体運営や審査書(ロケットの安全性を証明する書類)の完成度、当日の打ち上げ準備の段取りなども込みで総合的に審査される。
「大体の団体が打ち上げ時刻に遅れてしまう中、時間を前倒しして打ち上げることができました。現場の当日のオペレーション能力が団体として向上したのが感じられる場面でした。」「ただ打ち上げは失敗してしまったので、設計やスケジュールが本当に良かったのかは反省すべき事項だと思っています。しっかり解析を行って、これからに活かしていきたいです。」(指田)
「能代は新入生の教育要素が強いから、何かしらの失敗はするのかなという感じで、次回新入生が頑張ってくれたらいいのではないかと思います。」(勝部)
11月・3月の共同実験に向けて
11月と3月の打ち上げは「共同打ち上げ実験」と銘打っており、いくつかの団体と技術交流を行っている。土日で打ち上げて帰ってくるというハードスケジュールで、当日の天候によっては打ち上げられないまま終わってしまうこともあるそうだ。
「11月の実験では、これまで失敗が多かったのを見直し、シンプルな設計のものを作ろうと考えています。確実に成功させることを目標として、ロケットの飛行中のデータを確実に回収したいという思いが強いです。」(指田)
また、3月の実験に向けては朝野さんがプロジェクトマネージャーを、勝部さんが電装班の班長を務めている。
「COREの売りである自作エンジンの大型化に向けて開発を行っています。エンジン大型化のためには、大型エンジンが搭載できる高強度の機体や、機体を確実にコントロールできる電装やデータ取得も求められるので、これらのポイントを3月のミッションとしています。」「エンジンも高度なものが出来てきたので、それに合わせて機体と電装もレベルを上げられたらと思います。集大成にしたいです。」(朝野)
「プロジェクトマネージャーに無茶ぶりされているので、頑張って予算内に収めようとしています。」「班内でのマネジメントの仕方がこれまでと変わっているので、それを実証しつつ有望な後輩を使えたらなと思っています。」(勝部)
「3月の実験では確実性を求めつつ、新しいことも始まっているので凄くワクワクしています。」(指田)
※3月の共同打ち上げ実験について、新型コロナウイルスへの感染拡大防止の観点から、参加を取りやめることが決定した。(2月28日時点)
COREの魅力とは
COREがどのような活動をしているのか、これまでの打ち上げの成果や今後の目標を通じて少しずつ見えてきたところで、3人にCOREの魅力について伺ってみた。
「大人数でものをつくるのは楽しいです。大人数だから進まないこともあるけど、上手くいったときの達成感は大きいし、意見がいっぱい出てより良いものが作れるのは魅力だと思います。」(勝部)
「ロケット製作は知識の集合体だと感じます。燃焼工学や電子工学、材料力学といった機体に関わることはもちろん、団体運営の面では会計学など色々な知識が必要になります。それらのうちどこか1個でも失敗してしまうとロケットは打ち上がりません。全ての学問が完璧に揃って打ち上げにつながる様子を見られるのがとても魅力的です。こういう体験はCOREだからこそのものだと思います。」「一度ロケットを作ってみると、もっとこうしたい、ああしたい、という気持ちになるので、挑戦できる機会が年に3回あるのが良いです。」「殺伐としたイメージを持たれがちなものづくり系サークルですが、和気あいあいと活動していてサークルとして楽しいとも思います。」(指田)
「やりたいことができるところが魅力だと思います。やりたいことをやらせてあげる空気感があって、色々なことに挑戦しやすいです。実際私はこれまでに機体や地上設備、自作エンジンの製作に携われました。この人数がいたからこそ色々なことを進めることができたと思っています。」「ロケット製作は衣食住が削られて確かに辛いこともあるのですが、一つプロジェクトが終わるとその辛さも忘れてしまって、もう1回作りたいってなるんですよね。」(朝野)
切り口は様々ながらも3人とも「大人数でのものづくり」に魅力を感じているようである。COREでは新たにプロジェクトを立てる前にブレーンストーミングを行うという。とても多くの意見が出るようで、作業場所の壁には各々が思うやりたいことが書かれた付箋がたくさん貼られていた。メンバーがのびのびとできる環境から生み出されるアイデアは奇想天外なものも多いといい、そのアイデアを実現できる自由さもCOREの大きな特徴であり、魅力だそうだ。
ハイブリッドロケットの製作には金銭面や作業場所の確保など、一筋縄には行かないことも多くある。そのような困難の中で、COREはロケット自体のクオリティの向上はもちろんのこと、団体運営や組織のマネジメントについてもよりよい形を模索しているようであった。よりよいロケットの製作はよりよい組織作りに支えられているとでも言えようか。ものづくりとは、ただ「ものをつくる」だけではないのである。
そして、大人数で作るからこその幾多の苦労を越えた先に得られる達成感はとても大きなものになる。3人のお話を聞いていると、COREのメンバー一人一人がものづくりのそんな醍醐味を存分に味わいながらロケット製作に精を出しているのだろうと感じられた。
「実際、ひとりで作る方が作業も速くて確実なものができると思います。でも大人数でものをつくるのはサークルでしかできないことです。」(指田)
▲ 作業部屋の壁に貼られた大量の付箋。メンバー一人一人の「やってみたい」という発想から他の大学にはない斬新な機体が生み出されていく
南大沢にいるだけではその姿が見えにくい日野キャンパス。そこでは、熱い思いでものづくりに励む学生たちが今日も頑張っている。
【取材・文:人文・社会系 門口 樹輝(学生広報チーム)】