悔しさを乗り越え、琵琶湖の空へ
【2020年3月9日掲載記事】
ー2019課外活動団体紹介⑤(鳥人間部T-MIT)ー
いまや夏の風物詩にもなっている「鳥人間コンテスト」。
一度のフライトにすべてをかけているバードマンは、私たちに感動を与えてくれる。
鳥人間部T-MITは、現在部員わずが18名で活動している、人力プロペラ機製作サークルである。今回、T-MITで代表兼パイロットである坂本さんにお話を伺った。
Q1 去年の大会では、台風で惜しくもプラットホームから飛ばすことは叶いませんでしたが、2019年プロジェクトの活動について感想を頂けますか?
今年度の活動は、これからの人生で非常に為になることを学べたな、という感想です。今年度私は、メインは翼作製作業をこなしつつ、パイロット候補生としてトレーニングをしていました。しかし、鳥人間コンテストを目前に控えた4月に、急遽私自身がパイロットになることに。1ヶ月後に試験飛行を行い、3ヶ月後には大会という時期でのパイロット変更は過去に無く、新たに自分自身が「道」を作らなければなりませんでした。無理な減量による体調不良や自分の実力のなさに失望したりした1ヶ月が本当に苦しかったです。4月の苦難を乗り越えた5月、試験飛行で実際に飛行機が飛んだ瞬間の感動は今でも忘れられません。
与えられた条件下でベストを尽くして迎えた鳥人間コンテスト本番。大会3日前に台風「ナーリー」が発生したとの天気予報を目にし、流石に2年連続で台風直撃はあり得ないし逸れてくれるだろう、と楽観視していたものの、T-MITのフライト日である7月27日に見事直撃。翌28日は快晴でコンディションは最高。新記録の60㎞が達成されるほどであっただけに、本当に飛ばしたかったです。ただ、大会後に撮った集合写真のみんなの笑顔を見ると、飛ばすことはできなかったものの、最後まで諦めずに頑張ってよかったなと思いました。
「たとえ可能性が非常に小さかったとしても諦めず、ただ直向きに努力し続けるしかない。しかし、必ずしもその努力が全て報われるとも限らず、満足いく結果が得られないこともある。でもそうやって一歩ずつ着実に歩みを進めることで確かに道は開かれている。」なんてクサいことを言っていますね。でもこれは一生忘れることはないと思います。私自身の備忘録としてここに記させてください。
▲ 集合写真
Q2 1年間の活動はどのようなスケジュールなのでしょうか?
1年間のスケジュールと言えば、4月からまとめていくのがいいと思うのですが、T-MITは鳥人間コンテストを終えて執行代が交代となるので、8月からまとめさせてください。
7月の鳥人間コンテストを終え、新チームとして迎える初めの1ヶ月である8月は「プロジェクト会議」と呼ばれる1年間の方針を決める会議と、予算を決める「予算会議」を行います。チームの目標・方針の決定、それを達成するにはどのような機体をどのように製作すればいいのかを決めます。それと同時に、自分たちのお財布事情も考慮して予算を決めます。本気でやるものなので、「ここは妥協したくない」という部分には限られた資金のなかでとことんお金を掛けます。お金が無限にあればいいんですけどね。また、T-MITはこの時期にパイロットを決めます。この測定会は結構ハードです。
その後、9~11月は設計を進めながら各班で試作と製作練習という試行錯誤の期間です。12~3月には本番の機体の製作を行います。テスト前に徹夜で勉強するのと同じように、機体完成予定前の春休みは非常に過酷です。製作作業と同時に、鳥人間コンテスト出場申し込み書を完成させます。鳥人間コンテストの出場権は、この書類のみによって審査され、得ることができます。要するに自己アピール書類です。そして4月には合否発表があります。ここで合格の通知を貰い見事出場権を獲得することで、やっと鳥人間コンテストに出場することができます。
新歓期を終えて新たに一年生を迎え、5~6月には試験飛行を行います。この試験飛行では、設計通りの飛行性能を示しているかを確認するとともに、パイロットの操縦訓練を行います。金曜日の夜中に大学を出発して土曜日の早朝に飛行機を飛ばすという過酷なスケジュールですが、実際に飛行機が飛んでいる姿は、今までの辛さを一瞬で吹き飛ばし、一生の思い出となる素晴らしい瞬間です。その後、大会前までの7月は機体を本番仕様に改善、修復します。機体に触れることのできる最後の時だと思うとなかなか感慨深く、満足いくまで作業に当たります。そして、鳥人間コンテストを終えると執行代は引退となり、新たなチームへとバトンタッチです。
以上が主な1年間の活動スケジュールです。細かいことを上げればきりがありませんが、大まかにはこんな感じです。
Q3 私立大学のチームと比較して、かなり人数が少ないと思うのですが、その中でのメリットや苦労などがあれば教えてください。
やはりデメリットとしては、一人一人の作業量が多くなってしまい負担が大きい、ということが一番でしょう。こればかりは致し方なく、上を見ればきりがありませんが、過去には1人で製作して優勝した人もいるくらいなので、うまくマネジメントすることで何とかカバーしています。そして一人一人が負担しなくてはならない金額も大きくなってしまうということももう一つのデメリットでしょう。ある私立大学チームでは活動にかかる費用を大学が全額負担してくれるところもあるみたいですが、首都大からも、金銭面や環境面でもサポートして下さっているので本当に感謝です。ただ金額が大きいと感じたとしても、それに見合う経験が確実にできていると感じていますし、そこで諦めないでほしいなと個人的には感じます。
ただ、個人的にはメリットのほうが大きいと感じています。一学年10人程度という少人数であることから、同期はサークル以外でもずっと一緒にいるほど非常に仲が良いですし、先輩後輩という感じもなくチーム全員が家族のような感じになれます。強いチームかどうかというのはどれだけみんなが同じ方向を向いて努力しているか、団結力があるのかということだと思います。この2点はほかのどのチームにも負けることはないと自信をもって言えます。
Q4 パイロットと代表を務め、どちらも重責だと思いますが、その中での苦労などありましたか?
パイロットと代表、パイロットがトレーニングをおざなりにすればせっかくの素晴らしい機体も水の泡となり、代表がチームをうまくまとめなければチームが崩壊し、いい機体が完成しません。どちらも常に本気で取り組まなければならない役職です。ですが、私は普通の人間ですからうまくバランスを取らなくてはなりません。そのバランスのとり方が一番苦労している点だと思います。
今までで一番苦しかった時期は、出場書類作成の時期でした。出場書類は部員からアイデアをもらって代表が書き上げるというスタイルをとっています。この出場書類が満足のいくものがなかなか出来ず、試験期間とかぶっていたこともあり、トレーニングができない日々が続き、自責の念に駆られた2ヶ月でした。
そんな中、チームメイトが代表の仕事を手助けしてくれるので、うまくやっていけているという状況です。チームメイトには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
Q5 今年の大会に向けての抱負等がございましたら、教えてください。
抱負は、ずばり「優勝」です。代表としてチームをまとめ上げ最高の機体を完成させ、パイロットとして最後の最後まで諦めずにペダルを踏み続けてT-MITに優勝を届けたいです。まだまだやらなければいけないことがたくさんありますが、限られた時間の中でベストを尽くし今年こそはフライトを成し遂げ優勝してきますので、鳥人間部T-MITをぜひとも宜しくお願いします。
今年の夏は、プラットホームを前にし、“2年連続“飛ばすことが叶わなかった悔しさを乗り越えたT-MITの活躍から目が離せない。
【取材・文:理工学系 日田結実子(学生広報チーム)】