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2022.03.25
※2022年3月以前に都立大HP「People都立大人」に掲載された記事のアーカイブ記事です。

2018課外活動団体紹介⑥ T-MIT “ALES —天翔ける有翼の怪物— の挑戦”

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【2019年3月12日掲載記事】
T-MITは人力プロペラ機を設計、製作する首都大学東京の鳥人間部です。普段は日野キャンパスの体育館ステージで活動しています。今回は今年度の活動について前代表の服藤将人さん(航空宇宙3年)に伺いました。そこには毎年琵琶湖で開催される鳥人間コンテストにかけたT-MIT部員の熱い思いとドラマがありました。

キービジュアル
T-MITの皆さん
目指すのは琵琶湖の舞台

T-MITの1年は常に鳥人間コンテストに向いている。7月末に行われるコンテストが終われば、もう8月には次の年に向けた機体の試作や設計が始まる。そしてその年の12月から機体の審査が行われ、3月に合格発表。それも、応募したチームがすべて出場できるというわけではなく、毎年半分ほどが審査を通過することができない。
飛行速度を競う人力プロペラ機タイムトライアル(TT)部門において2016年度には準優勝を果たしたT-MIT。しかし、2017年度には何年も経験と知識を積んで取り組んできたTT部門がなくなり、距離を競うディスタンス部門に新たに挑戦をすることとなった。作る機体も速度が出るものと長距離飛ぶものでは異なる。試行錯誤を重ね、挑戦したもののその努力は実らず、惜しくも審査で敗退。主体となって設計や製作を進めてきた3年生は涙をのんだ。
その背中を見てきた服藤さんたちは2017年夏、ついに執行代となった。ディスタンス部門でも記録を残したいという思いで1年をスタート。機体名はALES。ラテン語で「翼をもった怪物」や「未来へ向けて飛翔」という意味で使われるといい、怪物級の出力を持ったパイロットに琵琶湖の大空を飛翔してほしい、T-MITのディスタンス機の原点となり、これからの快進撃の予兆となってほしいという意味で名付けたという。パイロットの負担を減らし、最大限の力を出して長距離飛ばせるように、より軽い素材や設計を変え、機体を極限まで低出力化したそうだ。
そして3月末。ALESは1年越しの琵琶湖への切符を勝ち取った。優勝を目指し、日々製作を行い、時には静岡県や埼玉県まで足を運び、深夜遅くから朝にかけてテスト飛行を繰り返し行った。

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▲ 服藤将人さん

アクシデント、そして本番へ

本番まであと1か月少しとなった6月半ばにそれは起きた。テスト飛行の際に機体が障害物と衝突してしまったのだ。機体は破損。幸いなことにパイロットにけがはなかった。棄権という考えも頭をよぎった。しかしあきらめることはなかった。毎日体育館へ通い、メンバーで必死に機体を修復。「パイロットの安全が第一。どんなに大変でも本番前にテスト飛行をしてから臨もうと必死に作業した」と当時を振り返り服藤さんは語った。紆余曲折を経ながらテスト飛行を行い、迎えた本番直前。琵琶湖には台風12号が迫ってきていた。当初は7/28(土)に滑空機部門、翌日にT-MITが出場する人力プロペラ機部門が行われる予定だったが、スケジュールを早め、滑空機部門終了次第28日に人力プロペラ機部門も行われることになった。人力プロペラ機部門が始まり、数機が琵琶湖へ挑む。しかし、台風の影響で強く吹く風は、その影響を強く受けるプロベラ機には過酷な状況だった。T-MITの出番まであと少し。しかし強風はやまず、運営側から人力プロペラ機部門中止との判断が下された。ALESはプラットホームから飛び立つことはできなかった。そして1年生からずっと一緒に駆け抜けてきた3年生12人の最後の琵琶湖への挑戦もここで終わった。
「1年間かけて作り上げたALESを飛ばすことができず、悔しい思いは非常に大きいです」服藤さんはそう語る。コンテスト当日のT-MITの姿が映るTV放送の動画を見せて頂いたが、メンバーの鳥人間コンテストにかける気持ち、そして悔しさがとても伝わってきた。
「琵琶湖で機体を飛ばすことはできなかったが、パイロットも怪我なく安全に本番まで駆け抜けられたことは本当に良かった。また、この一年の活動はディスタンス部門での蓄積を後輩に残すことができたから決して無駄ではなかった」と今年度の活動への思いを教えてくれた。パイロットの安全や後輩のことを思う服藤さんの「ひと」を大事にする姿勢がとても印象的だった。

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▲ テスト飛行の様子

来年度への想い

活動場所である体育館のステージでは1,2年生が早くも新たな機体製作に取り掛かっている。これからの活動に対する思いを執行代となった2年生に話を伺った。
「僕たちの代はT-MITの機体が実際に琵琶湖を飛ぶのをまだ経験していない。先輩たちを連れて絶対に琵琶湖を飛んで恩返しをしたい。琵琶湖に飢えています」(加納さん/機械工学2年:構造設計担当)
「先輩方の背中を見てやってきた。琵琶湖に行けたけど、飛ばせなくてとても悔しかったので、先輩の思いを背負ってリベンジを果たしたい」(新井さん/航空宇宙2年:空力設計担当)
「2年間琵琶湖で飛ばせていない。今年は部門が変わった前年度の思いを果たせたので、来年はさらに進化した強いT-MITで、琵琶湖で飛ばしたいです」(近藤さん/航空宇宙2年:駆動班長)

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▲ 機体製作中/加納さん(写真左)

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▲ 新井さん(左)と近藤さん(右)

T-MITにとって「琵琶湖」という場所が非常に特別な場所で、情熱をもってメンバー一人一人が鳥人間コンテストに向かって青春をかけて取り組んでいる様子がとても伝わってきた取材でした。また、人を飛ばすということに対する「安全」への責任感を強く感じました。熱い思いを持ったメンバーが集まるT-MITのこれからの活躍も期待しています。

【取材・文:自然・文化ツーリズムコース 浅利祐梨奈(学生広報チーム)】

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