伊藤 大介さん(独立行政法人国際協力機構(JICA)バングラデシュ事務所)
本学を卒業し、社会で活躍する先輩の皆さんにお話をうかがうシリーズ企画「卒業生は今…!」。在学時代の学びや学生生活、大学での経験と今のお仕事とのつながりなどを紹介します。
伊藤 大介(いとう だいすけ)
首都大学東京 都市環境学部 都市環境学科 地理環境コース(当時)卒業後、同大学院 都市環境科学研究科 都市環境科学域修了(理学修士)。2017年独立行政法人国際協力機構(JICA)入構後、本部勤務を経てバングラデシュ人民共和国に駐在。日本アルビニズムネットワークのスタッフとしても活動。
防災やインフラ整備を通じて途上国での自然災害の低減に貢献したい
在学中はどのような学生生活を送っていましたか?
高校時代に読んだ沢木耕太郎の「深夜特急」に影響を受け、海外を一人旅するバックパッカーに憧れを抱き、学生時代はアルバイトで貯金して、長期休暇にアジア・ヨーロッパ諸国を巡っていました。渡航先では節約のために現地の大学の食堂を利用することなども多く、キャンパス内を歩くだけでも日本の大学とは違った雰囲気を味わえました。留学して長期滞在すれば、自分の専門分野やライフスタイルの視野を広げられる、という期待感が高まり、まだ見ぬ何かを見てみたいという好奇心も膨らみました。一方、勉強面では都市環境学部地理環境コース(当時)に入学し、地形や地質を学ぶ研究室に所属。主に国内の河川地形の変遷に関する勉強を進め、将来は防災関連の仕事をしようと学部3年生の時に就職活動に臨みました。ただ、私は生まれつきメラニン色素が少ない遺伝性疾患「アルビノ」で、面接ではアルビノゆえの外見に対してネガティブな反応を示す企業もあり、悔しい思いをしました。それ以来、疾患の有無に関わらず、純粋に一緒に仕事がしたいと思われるような専門性・能力を高めることが目標になりました。そのため大学院に進学し、日本とは違った視点や研究環境で地理を学ぶために、大学院時代にはスウェーデン・ウメオ大学に留学しました。
悔しさをバネにして一念発起されたのですね。
留学先では、防災やインフラ整備の仕事を海外で行いたいと考えるようになったほか、留学後には長期休暇を利用して、タンザニアのアルビノ支援団体である「Albino Peacemaker」でのインターンシップに参加しました。初めて訪れた途上国で新鮮さを感じた反面、インフラが未発達な途上国だからこそ、自然災害の規模が甚大になる実情も痛感しました。専門知識を活かして途上国に貢献する仕事を志すようになり、国際協力機構(JICA)に入構。現在はバングラデシュに駐在しています。
現在の具体的なお仕事内容を教えてください。
バングラデシュ政府の防災や気候変動に関連する省庁と、気候変動に適応した自然災害に強靭な国づくりのために日本とバングラデシュでどのような事業を行えるのかを政策レベルから協議し、事業の形成、実施を行っています。特に同国で被害規模が大きい高潮や洪水対策、地震リスクに対する建物安全化などの防災事業に注力しています。仕事で重視しているのは、実際に国内各地の“現場”に足を運ぶこと。訪れた先では関係者の生の声を集め、類似する日本や他国の事例と比較して分析することもあります。地理環境コースでも「巡検」といって、体を動かし、頭を動かして現場の実情を分析する学習方法がありましたが、根底にある意識は同じで、学生時代の経験が役立っていると感じます。
アルビノの支援活動も続けているとお聞きしました。
日本アルビニズムネットワークという当事者団体に所属しており、日本にいた頃は国際会議等で登壇することもありました。私にとってアルビノの支援活動は、当事者としてのライフワークだと考えていて、特に若い世代のアルビノ当事者が、私がこれまで感じたような不安や悔しさを感じずに生きていけるような社会になるように貢献できればと思っています。私が国際協力というキャリアを主体的に歩み、途上国、社会に貢献しようとする姿を多くの当事者に見てもらうことで、アルビノの若者に「自分もやりたいことができる、社会の役に立つことができる」と思ってもらいたいのです。様々なハンデを抱えるアルビノでもやりがいのある仕事をしていけることを、身をもって示せるのは、当事者しかいないからです。
当事者だからこそできることがある。
「自分でもできること」ではなく、「自分だからこそできること」
今後の目標を教えてください。
近年のバングラデシュは、コロナ禍でも堅調な経済成長を遂げていて、タイやマレーシアと同等のGDP(国内総生産)を目指している段階です。バングラデシュの人々は好奇心旺盛ですし、向上心のある人は積極的に海外留学、就職し、グローバルに活躍しようとする気概に満ち溢れています。ただバングラデシュが目標とする中進国でも、先進国に成長するための様々な課題があるので、私はそれらの国々での事例も踏まえて、バングラデシュが目指す将来像のさらに一歩先を見据えた支援を提案していきたいと考えています。その点、JICAは100以上の国で活動しているので情報とリソースは豊富にあると思っています。日本の知見と途上国のニーズを組み合わせて、日本と途上国の双方の国益、経済成長に貢献できるような仕事をこれからもしたいと思っています。
最後に後輩や受験生へのメッセージをお願いします。
何よりも伝えたいのは、興味・関心に応じて実際にその場を訪れ、本物を目にすることの大切さ。そして、様々な当事者の立場に立って主体的、複眼的に考えてみることの大切さです。大学での研究や海外留学はその第一歩になると思います。また、ときにはあえて難題に立ち向かうことで本質的な問題点が見えてくることもあります。課題解決のための知識や技術は後からでも身に付けられるものもあるので、“思い立ったが吉日”、“やったことより、やらなかった後悔の方が大きい”という言葉にもあるように、「まずは飛び込んでみる」という行動力を養ってほしいと思います。都立大は居心地がいいのでキャンパス内に“安住”しがちなのですが、戻ってくる場所があるという安心感があるからこそ、積極的に学外に出てチャレンジしてほしいですね。