法学部専門教育科目 “法律学政治学演習(刑法)”
大学での授業スタイルは高校までとは大きく異なりますが、実際にイメージするのは難しいかもしれません。そこで今回は、法学部専門教育科目「法律学政治学演習(刑法)」に潜入。
担当教員の仙北谷奈緒先生のほか、4年生の上杉さんと永谷さんに授業内容や魅力を聞きました。


判例分析と問題演習を通じて、刑法を深く理解する

法学部法学科 仙北谷 奈緒 准教授
首都大学東京都市教養学部法学系(現・東京都立大学法学部)卒業後、同大学法科大学院修了・法務博士(専門職)。2022年に助教として都立大に着任し2025年より現職。専門は刑法。主な研究テーマは財産犯(特に横領罪)。
Q.扱うテーマや目的など、授業の概要から教えてください。
ゼミナール形式の法学部専門教育科目であり、前期は刑法総論に関する重要判例の分析と問題演習を、活発なディスカッションを交えて行います。刑法総論は犯罪の一般的な成立要件を学ぶ領域であるため、抽象的に議論されている内容を具体的にイメージできていない学生も少なくありません。そこで、「実行の着手」、「不作為犯」、「因果関係」、「正当防衛」、「共同正犯」といった重要なトピックを深く理解することがこの授業の目的です。一つのトピックに2回の授業をあて、1回目の授業を判例分析パートとし、2回目の授業を問題演習パートとすることで、刑法の体系的理解と実践的な思考力を養います。また、一方的に発言するだけでなく、他の学生の意見を受け止めた上で応答するなど、相互を尊重した議論を行う能力の修得を目指しています。
現在は、4年生3名と3年生12名が履修しており、学年に関係なく積極的な議論をしています。法曹志望の学生に限らず、公務員志望や一般企業への就職を目指す学生も参加しています。
Q.授業の進め方について、さらに詳しく教えてください。
判例分析パートでは、判例について事前に検討すべき事項を提示し、それに基づいて予習してもらいます。授業ではその点を中心に各自の考えを述べ、ディスカッションを行います。問題演習パートでは、司法試験や法科大学院入試の試験問題、演習教材の問題などをベースに、授業目的に合わせてアレンジした課題に取り組み、学生が事前に提出した答案を全員で共有し、適宜参照しながらディスカッションを進め、理解を深めていきます。
授業の進め方の特徴は、議論を通じて正解・不正解を決めることを目的としない点にあります。判例が正解だと絶対視しがちな学生もいますが、見方が変われば別の結論に至ることも十分にあり得ます。判決を読み込み、実際に起きた事件の具体的な事実関係を踏まえて検討することで、「どのような事実を、どのように評価するか」で結論が変わることが実感できるのです。また、同じ事実でも評価の仕方によってプラスの要素にもマイナスの要素にもなり得るのが、法律の面白さの一つであることが伝わるように心掛けています。
Q.学生にはどんな力を身に付けてほしいですか?
刑法に限らず、法律学は一つの正解をみつける学問ではありません。考え方や理由付けにより結論が変わり得る中で、自らの主張が問題解決としていかに優れているかを説得的に示す力が求められます。学生には、「多様な観点から物事を考える柔軟な思考力」や、「自分の思考プロセスを的確に表現する能力」を伸ばしてほしいと考えています。
この授業では、他の学生の答案を読むことや相手を尊重したディスカッションをすることにより、自然と異なる考えに触れることになります。考えたことを文章にし、また口にすることで、自分がなぜそう考えたのかをわかりやすい言葉で説明する力が磨かれていきます。
私自身も、学部時代にゼミを通じて法的思考力と表現力を培いました。一つのトピックを判例分析パートと問題演習パートという形で多角的に検討するこの授業スタイルは、学生のときに「こんな授業があったらいいな」と思っていたものです。
受講した学生にお話を伺いました

この授業を受講する4年生の上杉 倫太さんに受講した印象を伺いました。
Q.この授業の魅力を聞かせてください。
何と言っても発言しやすい雰囲気が魅力です。授業は先生が論点ごとにゼミ生から意見を募り、それをもとに内容の深堀りをしていく形で進みます。発言の際には先生がヒントを示してくれたり、簡潔に学生の意見を要約してくれたりなどフォローが手厚く、自信がなくとも積極的に発言しようと思う環境が整っています。また、法律学では抽象的な概念が多く1人学習では知識を適切に使うことが難しいです。この授業では概念を自分の言葉で説明する練習を積むことができると共に、先生の補足によって知識を整理できるので、その点も魅力に感じています。
Q.今後の目標を聞かせてください。
現在は弁護士を目標にしています。まず、都立大の法曹養成プログラムを利用して、先生と同じ都立大の法科大学院に進学したいと思っています。先生には進路についての相談もさせていただいていて、今後はより具体的に大学院入試対策のアドバイスもお願いしたいと思っています。法律学としては、細かな事実にどのような概念や規範を当てはめて法的な評価に結びつけるかが重要であり、その部分に一番の難しさを感じていますが、この授業のおかげで存分に練習ができますし、とても貴重な経験ができています。

この授業を受講する4年生の永谷 春彦さんに受講した印象を伺いました。
Q.この授業の魅力を聞かせてください。
先生と学生が多様な考えを認め合う雰囲気のため、誰もが積極的に発言しやすい点が大きな魅力です。また、法曹志望者は豊富な知識を答案や発言で応用できている一方で、法曹志望ではない学生からは、良い意味で既存の論点に縛られない着眼点での柔軟な意見を聞くことができます。そして、判例分析ではインプット、問題演習ではアウトプットができるため、知識を身に付けるだけでなく、場当たり的に議論するだけでもなく、基礎から応用までが一つの流れの中で完結する点も魅力です。論理的な思考力も高まります。
Q.今後の目標を聞かせてください。
私は将来、検察官を目指しており、法科大学院への進学を考えています。先生には大学院進学に関する相談に乗ってもらうなど、授業外でもサポートしていただいています。授業中は、他人の意見に対しネガティブな発言はしないというルールのおかげで、和気あいあいとした雰囲気があります。ぜひ、皆さんにおすすめしたい授業です。
取材を終えて(2025年7月15日の授業に潜入!)
先生の舵取りと、学生の考察力に感動

総合HP教員紹介ページ/
法学部法学科 仙北谷 奈緒 准教授(せんぼくや なお)