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2025.06.27
私の研究最前線 シリーズVol.9

ロボット技術で未来のコンビニを創造する

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新たな研究成果や研究の魅力、醍醐味などを語ってもらうシリーズ企画「私の研究最前線」。第9回目は、ロボットでコンビニエンスストアの業務を自動化する技術の開発に取り組む、システムデザイン学部の和田一義准教授にお話を伺いました。

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和田 一義准教授
システムデザイン学部 機械システム工学科 和田 一義准教授

ロボット工学を専門とし、特にサービスロボットの社会実装に関する研究を進めている。都立大赴任前は、国立研究開発法人産業技術総合研究所にてアザラシ型のセラピーロボット「パロ」の社会実装に関する研究に従事。現在はコンビニエンスストアにおける業務自動化のためのロボット開発を行うほか、『World Robot Summit(WRS)』(WRS実行委員会主催、経済産業省共催)内で「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」というロボットコンテストの企画・運営に携わる。

Q.和田先生は最近、どのような研究を行っているのですか?

 最近特に注力しているのは、コンビニエンスストアで行われている様々な業務をロボットで自動化するための技術開発です。私たちの研究室では、主に商品陳列作業を行うロボットを開発しています。
 コンビニには様々な形状やサイズ、柔らかさの商品が多数置かれていますが、それらをロボットがミスなく棚に陳列するのは技術的に大変難しい課題です。例えば、三角形のおにぎりと平たい弁当では形状が大きく異なるため、ロボットの手の使い方を変えなければなりません。また、商品の重さも100グラム程度のものから600グラム近いものまでありますから、それぞれ落とさず持てるように、力加減などを工夫する必要があります。
 こうした課題に対応するため、私たちの研究室では、人のようなアームを持つロボットではなく、上から商品を掴んだり、置いたりすることが可能な箱型のロボットを開発しました。このロボットはコンビニの店舗に置かれた商品棚の裏側で作業するイメージで全ての構造を組み立てており、動作を上から行うことで、ロボット本体と陳列棚の間で作業が完結するように設計しています。また、特殊なハンドも開発しました。指先に回転する部分を設けることで、倒れた商品を自然に起こすことができるしくみのハンドで、約10年かけて改良を重ね、様々な形状の商品を扱えるようになっています。
 コンビニで人が担っていた商品陳列作業を代替することを考えたとき、もしかすると多くの方は「人のように腕と手を使って商品を扱うロボット」を思い浮かべるかもしれません。しかし、人型のアームを持ったロボットは、実はアームの動きにかなりの制限がかかってしまうもの。そのため、陳列棚に商品を隙間なく並べることが難しいです。また、物を置くときに肘が外側に出っ張ってしまうため、多くの人が来店する店舗で使うには安全面でも課題が残ってしまいます。そのため、「上から商品を掴む」というアプローチでロボットを開発したのです。
 さらに、私たちの研究室では、陳列棚自体も“ロボットフレンドリー”に改良しています。例えば、棚が自動的にロボットの方に引き出されて作業しやすくなり、作業が終わると自動的に戻るというしくみです。こうした実社会での活用を想定したロボット開発において重要なのは、ロボット単体の性能だけでなく、環境も含めたシステム全体をデザインするという視点です。現在のコンビニは人間にとって使いやすい環境になっていますが、将来はロボットとの協働を前提とした環境に変わっていくでしょう。未来の新たなコンビニ像、ひいては近未来の社会像を提案する側面も持つ研究だといえます。

「上から商品を掴む」という特徴を持つロボットの画像1
「上から商品を掴む」という特徴を持つロボットの画像2
「上から商品を掴む」という特徴を持つロボット。これにより陳列棚に隙間なく商品を並べることができる。ロボットフレンドリーに改良された陳列棚もロボットを導入しやすい環境を作り出している。

Q.ロボットの技術開発を行うフィールドとして、コンビニに着目したきっかけを教えてください。

 私の研究は、ロボット技術を使って、新しいサービスを創出したり、社会実装したりすることを目指しています。ただロボット技術を開発するだけでなく、そのロボットを社会のしくみの中でどう位置付け、どう使っていくかといった点も含めて研究テーマにしています。
 以前勤めていた産業技術総合研究所では、アザラシ型のセラピーロボット「パロ」の研究に携わっていました。認知症ケアのツールとして世界的に普及しているこのロボットは、今ではアメリカやヨーロッパでは保険適用され、認知症患者の症状緩和などを目的に医療現場で処方が進んでいます。しかし一方で、日本ではなかなか普及していません。これは単に技術の問題ではなく、医療器具に関連する法律など、社会のしくみが違うことが大きいのです。この経験から、技術開発と同時に、社会に合わせてどうロボットを運用するか、サービスをどう構築するか、ルールをどう整備するかといった点を考える重要性を認識しました。その結果、現在のようなコンビニ業界におけるロボット開発に軸足を移しているのです。
 コンビニに着目したのは、ロボット技術の発展と社会実装を促進する場として最適だと感じたからです。コンビニが良い理由はいくつかあります。まず、チェーン展開していて環境が標準化されているため、一度技術を確立すれば広く展開できます。また、店内のどこで何をするかがはっきり分かれているため、課題を要素ごとに分解しやすいという特徴があります。例えば、レジ周りなら接客と商品提供、陳列棚なら商品整理という具合です。さらに、コンビニは日本国内だけで5万店以上、世界に広げればさらに多くの店舗があるため、一度技術が導入されれば大きな市場になります。現状ではロボットがほとんど導入されていない領域でもあるため、新たな可能性を切り開けると考えました。そこで、コンビニをフィールドに業務自動化を助けるロボットの技術開発を行うことに決めたのです。
 ただ、私の場合は単に実用的な技術を生み出すだけでなく、いち早く技術革新を起こし、社会実装を叶えられるよう、ロボットコンテストも同時並行で手がけているのが特徴といえるかもしれません。私は現在、コンビニにおけるロボット活用の潮流をつくり、技術革新を促すために、大手コンビニエンスストアと連携しながら「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」というコンビニ業界特化型のロボットコンテストに携わっています。このコンテストは、World Robot Summit(WRS)の中で行っており、2017年にプレ大会を開催して以来、継続的に実施されています。2025年は大阪・関西万博の中でコンテストのファイナル競技大会を開催する予定です。

Q.コンテストについてもう少し詳しく教えてください。

 通常のロボットコンテストとは異なり、最初に「デザインコンテスト」を行っています。これは、デザイン作成のプロセスを通じて、未来像を描ける人材を発掘したいという観点から、デザインコンテストとロボットコンテストを組み合わせるという世界初の試みです。
 実際のコンテスト内容としては、コンビニの現場にある課題に基づいて、3つの競技課題を設定しています。1つ目は商品の陳列・整理・廃棄作業の自動化です。これはコンビニで最も人手を要する作業の一つです。2つ目はロボット技術を活用した新しい接客サービスの提案です。3つ目はトイレ清掃の自動化です。特に昨今は、コンビニにおいてトイレの「クリーンネス」を一定に保つことが課題となっています。これは多国籍化するアルバイトスタッフの中で、「清潔さ」の基準が文化によって異なるという現場の声から生まれた課題です。
 また、このコンテストでは「ロボットフレンドリー」という考え方を取り入れています。通常のロボットコンテストでは与えられた環境や条件を変えてはいけませんが、このコンテストでは参加チームが商品や陳列棚などを「ロボットにとって扱いやすいように」改良しても良いというルールになっています。将来的にロボットが店舗で作業するようになれば、環境自体もロボットに合わせて変わっていくという考え方です。これも経済産業省が推進している「ロボットフレンドリー」の概念を取り入れた先進的な試みです。

2021年に開催された「World Robot Summit(WRS)」の様子
2021年に開催された「World Robot Summit(WRS)」の様子

Q.ロボット技術を社会に実装する上での課題は何でしょうか?

 ロボット技術を社会実装する上での課題は技術面だけではありません。先ほど例に出したアザラシ型セラピーロボット「パロ」の例を見ても、海外では保険適用されているのにもかかわらず、日本では同じロボットの普及が進まないという現実があります。これは、技術の問題ではなく社会のしくみの問題です。
 コンビニ自動化のロボット技術についても同様で、技術開発は進んでいますが、実際の店舗に導入するにはまだ多くの課題があります。例えば、店舗の内装自体を変更する必要があるため、すぐに全店舗に展開するのは難しいでしょう。
 さらに、ロボットの安全性確保も重要な課題です。技術開発だけでなく、ロボットが入った後の運用方法や、誰がロボットのメンテナンスを担当するのかといった点まで考える必要があります。そのため、すぐに実用化というわけにはいきませんが、段階的に技術を発展させながら、社会の受け入れ体制も整えていくことが重要です。
 私たちの研究は、単にロボットを開発するだけでなく、ロボットと人間が共存する未来の社会をどうつくるかという大きな視点から取り組んでいます。技術と社会の間のギャップを埋めることこそが、真の意味での社会実装だと考えています。

Q.最後に学生や受験生へのメッセージをお願いします。

 もしも今、やりたいことや夢、目標がある方は、それを周囲の人に言い続けていると叶う日が近づいてくるかもしれません。実際、私もコンビニ業界特化型のロボットコンテストの構想を思いついたとき、学会で何度も提案をし続けました。約2年間アイデアを発信し続けるうちに賛同者が増え、パートナーとして大手コンビニエンスストアの協力も得られることになりました。
 そうした経験から、黙って一人で頑張るよりも、自分のビジョンをたくさんの人に伝え続けることが大切だと自信を持って言えます。会う人に毎回同じことを言い続ける。「こういうことをやりたい」と2年くらい言い続けると、「この人は本気だ」と周りが認識し始め、協力者が現れる。そうすると不思議なことに、協力者や資金などの必要なリソースが次々と集まってくるものです。世の中には面白いことをやりたい人を、応援したい人がたくさんいます。何をやりたいのかを明確にして、それが多くの人を幸せにできるようなビジョンであれば、必ず共感者が現れるでしょう。
 都立大の機械システム工学科では、このような社会実装を見据えたロボット技術の研究に取り組むことができます。技術開発だけでなく、その技術をどう社会に活かしていくかという視点を持った研究者や技術者を目指したい方は、ぜひ私たちの研究室の門を叩いてください。未知の領域にこそ、自分を高めるチャンスがあります。

セラピーロボット「パロ」

総合HP教員紹介ページ/
システムデザイン学部 機械システム工学科 准教授 和田 一義(わだ かずよし)

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