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2025.05.30
特集 Vol.8 特別企画

博士後期課程学生座談会

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若手研究者の人材育成に力を入れる東京都立大学は、2023年度に博士人材支援室を開設。
「博士後期課程学生支援プロジェクト」がスタートし、経済的な支援やキャリア支援、研究環境の拡充などを推進しています。今回の特集では、博士後期課程で研究に邁進する3名の生の声をお届けします。

キービジュアル
吉澤 林助さん
吉澤 林助さん

人文科学研究科 文化基礎論専攻
歴史学・考古学分野 博士後期課程 2年
高知県 私立土佐高等学校出身

沢崎 薫さん
沢崎 薫さん

システムデザイン研究科 システムデザイン専攻
機械システム工学域 博士後期課程 3年
神奈川県立多摩高等学校出身

西尾 英倫さん
西尾 英倫さん

都市環境科学研究科 都市環境科学専攻
環境応用化学域 博士後期課程 3年
東京都立八王子東高等学校出身

目標、背景も人それぞれ。多様性が学びを豊かにする大学院進学

皆さんが博士後期課程に進学した経緯を教えてください。

吉澤さん
吉澤さん
私は歴史を勉強したい一心で大阪大学文学部に入学し、在学中は中学の「社会」と、高校の「地理歴史」「公民」の教員免許を取得しました。卒業後は一般企業に就職しましたが、歴史研究の楽しさが忘れられず都立大大学院に進学を決意。一度社会に出ていますので親には頼らず、博士前期課程は学外の給付型奨学金と社会人時代の貯蓄でやりくりしました。博士後期課程では都立大の「領域リフレーミング双対型博士人材育成プロジェクト」に採用され、2025年度からは学振特別研究員(DC2)※に切り替わります。
西尾さん
西尾さん
私にとって研究者は高校時代からの目標でしたので、博士後期課程への進学を前提に都立大に入学し、学部4年次から現在まで一貫して固体触媒を用いた有機分子変換反応の研究に取り組んでいます。1・2年次は本学の「双対型博士人材育成プロジェクト」に採用されました。また、指導教員の研究プロジェクトでリサーチアシスタント(RA)として雇用され、3年次からは学振特別研究員(DC2)にも採用されたため、現在はRAと学振特別研究員の給料で生計を立てています。
沢崎さん
沢崎さん
私は就職活動でのメリットなどを理由に都立大大学院に進学を決めたものの、博士前期課程はコロナ禍で思うような研究活動ができず消化不良に。それでも研究を続けていく中で、バイオエンジニアリング分野の研究が性に合うと自覚できたため博士後期課程にも進み、1・2年次は「双対型博士人材育成プロジェクト」、3年次からは学振特別研究員(DC2)から経済的な支援を受けています。
※学振特別研究員…独立行政法人 日本学術振興会の特別研究員制度。
DC1・DC2・PDなど、特別研究員としての区分に応じて研究奨励金および特別研究員奨励費(科研費)が支給される。

“博士人材”といっても、十人十色の将来設計があっていい

普段から心掛けていることがあれば教えてください。

吉澤さん
吉澤さん
積極的に学会などに参加して人脈を広げるよう努めています。都立大に来てからは、国立国会図書館や東京大学史料編纂所が近い環境面のメリットも存分に活かしています。研究では焦燥感にかられることもありますが、転機になったのは2024年に学部時代の同期と結婚したこと。研究以外の時間ができて心のゆとりが生まれ、妻と過ごす時間は何よりもリフレッシュになっています。
西尾さん
西尾さん
私も「双対型博士人材育成プロジェクト」や学振特別研究員で支給される研究費を使って自主的に学会などに参加しています。最近では、学会に参加している同世代の学生や実績のある研究者の方々と高いレベルで対話できるようになった実感があります。かつては未解明の現象ばかりの状況に疲弊し、研究に向き合うことができない時期もあったのですが、夜型だった生活スタイルを朝型に変えたり、好きなバンドのライブ観賞やプロ野球観戦をしたりと、リフレッシュも大切にするようになりました。
沢崎さん
沢崎さん
博士後期課程に進むと 20代のほとんどを大学で過ごすことになり、多くの親御さんは「社会に出遅れる」と心配しがちです。また、女性であれば結婚や出産といったライフイベントへの不安が高まることは確かだと思います。実際に進学してみると、10人いれば10通りの生き方があることを実感しました。思っている以上に将来の選択肢は豊富にありますので、興味のある分野の研究に打ち込みながら将来設計を進めていける良さがあると思います。

“好き”を仕事にするための過程もまた楽しいもの

今後の目標を教えてください。

吉澤さん
吉澤さん
博士論文での目標は、地元の「戦国大名」である長宗我部氏の事例を基に、中近世における全国的な権力構造の研究にインパクトを与えることです。また、過疎地域では古文書や伝承が消滅しかねないため、地元の四国山地での史料保全や古老からの聞き取りも進めていく予定です。将来は、博士前期課程で取得した学芸員資格を活かして博物館に就職したいと考えています。現在は“好きを仕事にする”という夢を追いかけている段階ですが、その過程も楽しんでいます。
西尾さん
西尾さん
現在はバイオマス化合物から有用な化成品をつくり出す技術開発を進めています。アカデミアで生き残ることは決して容易ではありませんが、2025年度からは理化学研究所に勤務し、革新的な炭素循環型社会の実現に貢献することが目標です。実のところ私は京都大学を志望していたのですが、今では大学の名前ではなく、研究室でいかに努力するかで可能性は広げられると感じています。都立大は設備や支援体制も充実していますのでおすすめです。都立大に来て本当に良かったと思っています。
沢崎さん
沢崎さん
私は現在、大動脈瘤や大動脈解離の救命率を高めるために、培養した細胞で人工的に血管モデルをつくることで発症メカニズムの解明へアプローチする研究をしており、新たな治療法の確立に貢献することを目標としています。2025年度からは博士研究員(ポスドク)として都立大に残って研究を続けますが、研究室で後輩が成長していく姿に喜びを感じている自分に気付き、将来は研究と教育どちらにも力を発揮できる大学教員を目指したいと考えています。
※記載の支援内容等は全て取材時(2025年3月)のものです。

領域リフレーミング双対型博士人材育成プロジェクト

領域リフレーミング双対型博士人材育成プロジェクト(旧:双対型博士人材育成プロジェクト)は、博士人材支援室が取り組む「博士後期課程学生支援プロジェクト」の一つ。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が実施する次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)の助成を受けて実施している。このプロジェクトでは、年240万円の研究奨励費および年30万円の研究費が支給されるだけでなく、次世代の高度人材に必要とされるトランスファラブルスキル獲得のための様々なセミナーの提供に加え、きめ細やかなキャリア支援を受けることができる。
本プロジェクトを含む博士後期課程学生支援の詳細については、博士人材支援室HPで情報発信している。

東京都立大学 総合研究推進機構 博士人材支援室
https://research-miyacology.tmu.ac.jp/human-resources-support/

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