デザインと工学、横断的な学びの集大成「インダストリアルアート学科・学域 卒業・修了制作研究展」
システムデザイン学部インダストリアルアート学科では、12の専門スタジオ※に分かれた学生たちが卒業・修了制作に挑みます。
卒業・修了制作研究展では、展示計画や運営も学生主体で行い、東京都美術館で成果を発表。
教員のサポートのもと、クリエーターや研究者として大きく成長する姿が見られます。
今回は、熱意あふれる先生と学生たちにお話を伺いました。
※システムデザイン研究科インダストリアルアート学域では13の専門スタジオ
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開催概要
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https://industrial-art.sd.tmu.ac.jp/ge2025/
開催期間
2025年3月1日(土)~3月7日(金)
開催場所
東京都美術館ギャラリーAおよびギャラリーB
開催時間
9:30~17:30(最終入場17:00)
最終日のみ9:30〜12:00(最終入場11:30)
※3月3日は休館日のため展示は行っておりません
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土屋 真助教
システムデザイン学部 インダストリアルアート学科
システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域
東京藝術大学にて修士(美術)、東北大学にて博士(工学)取得。2009年度より、首都大学東京(現 東京都立大学)システムデザイン学部インダストリアルアート学科助教に着任、現在に至る。現在は、移動空間を用いた社会的有用性に関する実証的研究が専門。「総合防災対策研究プロジェクト」に参加し、トレーラーハウスの研究に携わる。
Q. インダストリアルアート学科とは、どのような学科でしょうか?
インダストリアルアート学科は、多彩なデザイン領域と工学領域を横断的に学ぶことができる学科です。主に「基礎総合ワークショップ」と「コア科目」の2つの専門科目があり、「基礎総合ワークショップ」でアート・デザイン全般に不可欠な技術と知識を学び、「コア科目」ではプロダクトデザインとメディアアートというフィールドを設け、演習科目などで専門性を高めています。
プロダクトデザインでは、人間工学、空間デザイン、プロダクトと、そのサービスのデザインを学びます。モビリティーのデザインや、インターフェースのデザインに関する分野もあります。一方でメディアアートでは、エンジニアリング・プログラミング技術を活用し機械を動かしたり、ソフトウェアをデザインしたり、ほかにもエディティング、グラフィック、インタラクティブアート、ネットワーク、映像デザイン、音楽音響デザインなど、多岐にわたる分野に触れることができます。
Q. 「卒業・修了制作研究展」を行う目的と、そこでの学びについて教えてください。
学部では4年次に研究室(スタジオ)に配属され、1年間で卒業研究・制作に取り組み、博士前期課程では2年かけて修了制作・修士研究に臨みます。それらの集大成として「卒業・修了制作研究展」(以下、「卒展」という)」で発表します。東京都美術館で実施するので、一般の方が観覧される中での発表となります。
4年次の1年間は、与えられた課題に対して向き合っていく作業とは違い、自ら生み出していく自問自答の作業となるので、クリエーターそして研究者として大きく成長していきます。自分が生み出した作品をどのように展示するかまでを含めて卒業制作の一部として位置付けているため、展示計画や運営まで、全体を通して学生たちが主体的に携わります。
教員側は、週に1回程度のペースで進捗を確認していますが、学生が主体的に選択し進められるようサポートをしています。中には、直前で大きく方向性を変えたり、悩み過ぎて前に進めなかったりする学生もいます。一人で悶々と考えてしまうと答えが出ないこともありますが、教員とのディスカッションで意見を出し合ったり他の学生の報告を聞いたりすることで新たなアイデアが浮かぶこともありますので、それらを経て、デザインそして研究としてクオリティーの高いものを最終的には仕上げられるようになります。
卒展では、学外の方が観覧することを視野に入れ、計画を練ります。学外の方から感想や意見をいただけるという貴重な機会は、学生にとって思いがけない良い気付きや発見につながっているようです。
Q. インダストリアルアート学科・学域を目指す方にメッセージをお願いします。
デザインの概念は、昨今、かなり広義になっています。本学科は12のスタジオ、学域においては音楽音響デザインスタジオが加わり13のスタジオがあり、学生たちは幅広い分野の中から自分の興味の赴くままに研究をしています。また、卒業生はみな、工学とデザインの両方をバランス良く身に付け、応用力を持ち、社会的にも有用な人材として巣立っています。入学時に「広くデザインを学びたいが、具体的な目標が見つからない」と感じていたとしても、大学で新たに何かに出会い学びたいと思っている学生にとっては、最適な学科・学域だと思います。
学生インタビュー
言葉をデザイン化するアイデアに着目し、動詞や擬態語のイメージ化に挑戦しました
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山上 茉姫(やまがみ まひめ)さん
システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域インテリアデザインスタジオ
博士前期課程 2年
動詞の持つ意味やイメージをデザイン化
私は、卒展で先輩方の作品を見たときに、それぞれが表現したいことを自由に表現している点に惹かれ、インテリアデザインスタジオを選びました。あれもこれもと興味が広がりやすく、幅広くデザインを捉えていきたいと思う自分に合うと思ったからです。
学びを深める中で、言葉のイメージ化に興味を持ちました。学部4年次は動詞をテーマに、動詞の意味から形を考えて立体物をつくる研究を行いました。150個の動詞のイメージを立体キューブにしたのですが、その設営が大変でした。もちろん展示計画を立てた上で会場に行くのですが、実際に組み立ててみると雰囲気が変わるので、現場での調整に苦労しました。
大学院ではオノマトペをテーマにし、多くの調査データの分類・体系化にチャレンジ
大学院では擬態語、オノマトペについて研究しています。例えば、“わくわく”という言葉を聞いて、どんな形を思い浮かべるのかといったことを調査し、分析しています。人によってイメージは違うのですが、なんとなく丸い形や複雑な形など、部分的に共通する特徴があるので、それらを抽出して体系化していければと思っています。
学部生時代は主観的なイメージを優先させた部分があったのですが、大学院では、多くの人の共通イメージを取り出すという客観性を重視しました。調査データを分類して体系化し、最終的には辞書の形にして発表する予定です。
展示を見た方の率直な意見や感想が刺激に
卒展では、実際に見学者に説明や案内をすることがあります。小さなお子さんから年配の方までいらっしゃるので、展示内容に共感してくださる方や異なる意見をくださる方、私の作品を見ながら議論し合う方もいたりして、刺激的な体験でした。時間をかけて研究した作品をデザインに落とし込み、展示計画を立てて、多くの方に見ていただける卒展は、私を大きく成長させてくれました。
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垂直農業をテーマに、空間デザインのあり方を考察しました
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橋村 尚(はしむら なお)さん
システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域空間デザインスタジオ
博士前期課程 2年
日常的に存在し、人に影響を与える空間デザインに興味を持ちました
大学院進学後も、学部から引き続き空間デザインスタジオで学んでいます。高校生時代は機械やロボットに興味があったのですが、オープンキャンパスでカーデザインを研究できる専攻があると知って、やってみたいと入学を志しました。入学後は、車だけでなく、「日常に広がる人の生活空間を快適にするデザインのあり方」について考えるようになり、最終的に空間デザインのスタジオを選びました。
垂直農業をテーマに、既存施設のリノベーションを提案
学部生の卒展と、現在に至るまで私がテーマに選んだのは、垂直農業です。一般には室内農業ともよばれていますが、建物の中で高さを利用して栽培する方法で、従来よりも広い土地を必要としないなどのメリットがあります。今まで広い平面で展開されていた農業が、建物の中に入り込んで一体化することに面白さを感じました。学部4年次の卒展では、先行事例などから研究を進め、「廃園となった学校施設をリノベーションしたインドアファーミングの提案」という主旨で展示しました。大学院の修了制作では、地域のコミュニティに根差すことで市場を獲得している都市農業の良さを垂直農業でも実現することで、新しい形を提案したいと考えています。垂直農業施設の一例として展示する予定です。
垂直農業への研究を深めるために大学院へ進学
大学院では2年かけて修了制作をつくり込んでいきます。学部時代と比べて自分で設定したテーマについて検討する時間がかなり増えたので、自分の作品と向き合う良いきっかけになり、あっという間の2年間でした。文献や事例調査も時間をかけて深堀りし、室内農業、垂直農業、温室といったキーワードを整理しマッピング。垂直農業施設を実際に建築することも想定し、環境要素等を含めたあらゆる目線から分析しています。文献調査などは家でも進められますが、最終的には模型を制作しますので、今は研究室で粛々と作業を進めています。模型制作は、細かい作業を長い時間集中して行うことが多く、時には研究室の仲間とおしゃべりをしてリフレッシュしています。研究室にいると、ふとしたことから会話が始まり、いろんな視点からアイデアが出ることもあるので楽しいです。モチベーションが下がってうまく進められないときは、自分の好きな建築や憧れている作品などを見直すことで、心が揺さぶられる想いを再確認し、前向きな気持ちを思い出しています。
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人とつながりアイデアを結ぶことで、クリエイティブを展開させたいです
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鳥生 菜々子(とりう ななこ)さん
システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域インテリアデザインスタジオ
博士前期課程 1年
得意な理系×興味のあるデザインを学ぶために進学
私は、デザインと工学の両方を学びたいと思い、都立大に進学しました。システムデザイン学部には幅広い分野があるので、電子工学や機械、航空分野などの学生たちと一緒に学べることが刺激的で楽しいです。私は、人とつながる中でアイデアを発展させたりものをつくったりするのが好きなのですが、都立大の授業では様々な分野で活躍されているプロの方々のお話を直接聞くことのできる機会が多く、幅広い学びのチャンスがあるのが良いと感じています。
素材に穴を開けるアイデアで、作品が新しく生まれ変わる
学部4年次では、あらゆる角度によって見え方が変わる「多方向視差効果」を、素材一面に穴を開けることによって生み出す「微細穴加工」の研究に取り組みました。この技術を着想したのは、特注照明を製造する企業の社長の方が、「板にいっぱい穴を開けたら面白いかも」とSNSに投稿していたのを見て、アイデアに惹かれたことがきっかけでした。思い切ってその社長の方に連絡を取り、卒業テーマにする許可をいただきました。穴を開ける作業は非常に地道な作業で、角度や大きさなどがイメージどおりにいかず、失敗を繰り返したこともありました。卒展に社長の方が来てくださり、「ここまでアイデアを広げてくれてありがとう」とお声がけいただき、とてもうれしかったです。
穴開けアイデアを発展させ、社会還元を目指します
大学院では、コロナ禍の際に使われていた飛沫防止パネルの有効活用に着目しました。回収業者の方へ直接お話を伺いながら、それらを材料として転用させることで、将来的には社会貢献にもつながればと考えています。穴を開けるアイデアはそのまま活かし、穴の大きさや配列などを学術的に整理しているところです。穴を開けることで基の素材が生まれ変わる。例えば汚れて使えないようなパネルでもアップサイクルできるのが魅力で、さらなる展開が期待できそうです。
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自分の考えていることを、「イメージで伝える」SNSツールの開発を目指しました
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𩵋田 真之介(うおた しんのすけ)さん
システムデザイン学部 インダストリアルアート学科ネットワークデザインスタジオ 4年
自分のイメージを制約なく展開できるネットワークの世界に魅了されて
私は、理工分野からデザインまで横断的に学べることに魅力を感じて入学しました。講義では、他分野の学生と共同で課題制作をすることがあり、お互いに学ぶ分野が違う中で思いがけないアイデアや視点を得られ、非常に良い刺激を得ています。現在は、ネットワークデザインスタジオでデータの可視化、インフォグラフィックスやビジュアライゼーションについて学んでいます。ネットワークメディアの世界は縛りがなく、自分の考えたイメージのまま作品をつくり出せる点が、とても面白いと感じています。
データの保存処理などがうまくいかず苦戦することも
私の卒業制作のテーマは、「テキストを使わないSNS」についてです。テキストだけのコミュニケーションは、テキストを受け取る側にある意味委ねられていて、イメージに齟齬が生まれ問題が起こるケースがあります。同じ日本語を使っていても、意味が様々で受け取り方も異なるからです。そこで、テキストの代わりに伝えたいことを色や形で表示するアプリケーションがあれば、その誤差を埋めることができて、世間で話題となるようなトラブルも防げるのではないかと考えました。WEBアプリケーションを制作する場合、ユーザーが操作する表側と、ユーザーのデータを保存して分析するといった裏側の2つの技術が必要です。私は、表側の技術は今までの課題制作等で取り組んできたのですが、裏側の部分に関して知識が未熟で苦労しました。
進捗報告会でのアドバイスで、前向きに制作に打ち込めました
進捗確認を含めた報告会が週1回程度開催されているのですが、一緒に参加している友人たちの反応や感想がうれしく、大きなモチベーションになりました。一方、先生方からは、「テキストがなぜダメなのか」といった、作品テーマの根本的な考え方をよりわかりやすくしなければならないという観点から指摘をいただき、伝え方をもっと工夫する必要があると感じました。学科の先生方は、プロのデザイナーとして経験豊富な方が多く、実務的な視点でアドバイスをいただける点がありがたかったです。
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