統計学とプログラミング、社会で生きるスキルを磨く「荒戸ゼミ」
指導教員による少人数体制の下、学生が興味あるテーマについて専門性を高めていく「ゼミ・研究室」を紹介するシリーズ企画。第4回目は、経済経営学部・荒戸寛樹先生のゼミナールです。
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協働的な学びを通じてデータサイエンスの素地を磨く研究室です。
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経済経営学部 経済経営学科 経済学コース・経営学コース 荒戸 寛樹准教授
京都大学理学部を卒業後、同大学院経済学研究科博士前期課程修了、同博士後期課程修了、博士(経済学)。一橋大学経済研究所COE研究員を経て、2010年4月に首都大学東京(現・東京都立大学)の都市教養学部経営学系助教に着任。その後、信州大学経済学部講師を経て、2014年より首都大学東京で准教授に。2020年4月より現職。専門はマクロ経済学。
Q.先生のゼミで学べることや、学生を指導する際の特徴を教えてください。
私のゼミでは、「ベイズ統計学」を中心にデータ解析の手法を学びます。ベイズ統計学は比較的新しい統計手法ですが、機械学習など昨今注目を集めている分野と相性が良く、多様な分野で広く活用されています。私は学生の皆さんに、社会で役立つスキルを身に付けた上で都立大を巣立ってほしいと考えています。そのため、私のゼミでは、Pythonというプログラミング言語を習得してもらい、それを用いながらデータ分析を実践的に学びます。
ゼミの進め方としては、3年次直前の春休みに確率論の復習を行うことからスタートします。その後、4月以降はテキストを基にベイズ統計学の基礎を学び、次にPythonを使ったデータ分析に取り組みます。プログラミング未経験の学生も多いため、教科書のコードを実際に試しながら学習する形式を取り入れ、スキルを身に付けます。
4年次には、統計手法や経済学の理論など幅広い領域から研究テーマを選んでもらいます。また、卒業論文の執筆だけでなく、自分の興味のあるテーマで発表するなど、多様な成長の機会を提供しています。
Q.ゼミでの学びを通じて、学生にどのような力を身に付けてほしいと考えていますか。
ゼミを通じて、私は学生たちに、学ぶ楽しさや自ら考えて答えを導き出す力を身に付けてほしいと考えています。特に、データ分析の手法を学ぶ際には、一人ひとりの理解度に応じて柔軟に進めるよう心がけています。プログラミングの課題でつまずいたときも、ゼミ生相互で助け合いながら解決し、諦めずに学び続ける力を養える環境を提供しています。
また、学んだ知識は社会に出た際に役立つだけでなく、趣味や日常生活にも応用できます。それを実感することで、学びがより有意義なものになるでしょう。例えば、私はプライベートで"推し活"を楽しんでいますが、データ分析の知識を活用し、推しアーティストの人気動向や活動の社会的波及効果を客観的に評価することができます。このように、自分の興味関心を基にデータを分析することで、楽しみながら知識を深めることが可能です。
学問は「将来の仕事に役立てるもの」であると同時に、人生を豊かにする手段でもあります。学生たちがその可能性に気付き、学びを楽しく、意義深いものとして感じられるような経験を提供していきたいと考えています。
Q.最後に、この分野を学ぶ面白さについてお聞かせください。
「経済学を学ぶ」とは、「人間そのものや社会全体を深く考えること」だと私は考えています。例えば、人々の消費行動には、食事、娯楽、教育への投資など、それぞれの人生の選択が反映されています。こうした個々の選択が集まり、価格の変動を引き起こし、その結果が再び人々の行動に影響を与える。このような相互作用の中で、社会が形づくられていることに気付きます。
お金の動きには必ず人間の行動や心理が関わっているのだとすれば、それを深掘りすることで、私たちは人間社会の本質に迫ることができます。さらに、経済学を学ぶことで、人間の行動の背景にある理由を理解し、社会をより広い視野で見る力を養うことができます。その結果、多様な価値観や行動を自然に受け入れられる柔軟な視点を持てるようになるでしょう。
経済学は単なる「お金の学問」ではなく、人間や社会を多面的に理解し、より良い社会の形を考えるための強力なツールです。ぜひ経済学を通じて、自分自身や社会について深く考え、学びの楽しさを感じていただければと思います。
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マクロ経済学的視点から、社会課題の解決に向けたモデル分析を進めています。
マクロ経済学の観点から、主に次の2つのテーマについて研究を行っています。1つ目は、「女性の社会進出」に関する研究です。特に女性の職業選択に焦点を当て、賃金や人々が持つ価値観などの社会的要因が女性の選択をどの程度歪めているのかを、経済モデルを用いて分析しています。2つ目は、情報が経済に与える影響についての研究です。景気の変動は、個々人の行動の総和として捉えることができます。人は周囲の情報や他者の行動に影響を受けながら意思決定を行うもの。そのため、政府や報道機関から発信される一つ一つの情報が、経済全体に予想以上の影響を及ぼすことがあるのです。そこで、この研究では「不完備情報ゲーム」という理論的な枠組みを用いて、公的機関による効果的な情報発信のあり方を探っています。
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統計学の知識やデータ分析力を身に付け、データアナリストを目指したい
経済経営学部 経済経営学科 3年
小森 春太さん
東京都立新宿高等学校出身
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荒戸ゼミを選んだ理由は?
私はもともと中学や高校などで野球をプレーしていたこともあり、日ごろからプロ野球選手の打率や防御率といったデータをチェックするのが好きでした。この趣味が高じて、3年次から始まるゼミでは、統計学やデータ分析を専門的に学びたいと考えるように。統計学を扱ういくつかのゼミの中でも、実際に手を動かしてPythonを使いながら実践的に学べる荒戸ゼミにひときわ興味を引かれました。
ゼミの雰囲気や、荒戸先生の指導の中で特に印象に残っていることを教えてください。
一見すると和やかな雰囲気ですが、学習に取り組むときの集中力は高く、メリハリの効いたゼミ活動を行っています。現在はベイズ統計学の教科書を使用し、Pythonというプログラミング言語を用いた実践的なデータ分析を学んでいます。特に印象的なのは先生の指導方法で、私たちがつまずいたときに適切なタイミングで助言をくださり、最終的には自分たちで結論を導き出せるよう指導してくださいます。自分で考え、答えを導き出す力を自然と伸ばせるゼミだと感じています。
小森さんは現在3年次ですが、4年次はどのような研究に取り組みたいですか?
詳細なテーマはまだ決まっていませんが、大きな方向性として、「野球の過去データを用いた将来予測」に関する研究に取り組みたいと考えています。現在入手できる野球のさまざまなデータを活用し、選手や設備環境などの要因が変化した場合、試合結果がどのように変わるのかといったことを分析してみたいです。
これまでの統計学では、未来予測を行うためには、個人では到底手に入れられないほどの膨大なデータが必要でした。しかし、ベイズ統計学を用いることで、比較的小規模なデータでも高精度な予測が可能です。この研究を通じて、スポーツ分野のデータ活用の可能性を自分なりに考えられたらと、研究計画を検討しています。
ゼミで学んだことを、将来どのように活かしていきたいですか?
将来はデータアナリストとして働きたいと考えています。ゼミで培ったPythonや統計のスキルは、この分野で大いに活かせると感じています。特に、研究テーマとして考えている「スポーツ分野でのデータ活用」に興味があるため、いつかこの分野で仕事をしてみたいです。これからもゼミでPythonの活用方法やデータ分析の手法をしっかりと学び続け、データサイエンスを通じてスポーツ分野での新たな可能性を引き出せるような人材になれたらと思います。
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統計学を学びながら、資格取得も目指せる仲間と切磋琢磨できる環境が荒戸ゼミの魅力
経済経営学部 経済経営学科 3年
今野 慎太郎さん
神奈川県立多摩高等学校出身
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荒戸ゼミを選んだ理由は?
統計学に興味があったことに加え、「サブゼミ」と称して資格取得に向けた実用的な学びができる点にも大いに魅力を感じ、荒戸先生のゼミを選びました。サブゼミは通常のゼミとは別に設けられており、2コマ分の時間を使い、ファイナンシャルプランナーやMOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)といった、企業で役立つ資格試験の対策に取り組んでいます。一人で資格取得を目指すのは大変ですが、仲間と一緒なら効率良く勉強を進められると感じました。ゼミの仲間と共に、多くのことを学び合いながら成長したいと思い、このゼミを志望しました。
ゼミの雰囲気や荒戸先生の指導の中で特に印象に残っていることを教えてください。
荒戸ゼミは、ゼミ生同士が意見を自由に言いやすい雰囲気があり、荒戸先生やほかのゼミ生が適切なタイミングで補足や質問を入れてくれるため、学びの深い議論が展開されているように思います。現在は3年次が8名所属しており、わからないことを教え合ったり、Pythonで組んだプログラムのエラーをお互いに指摘し合ったりと、協力しながら学ぶ機会が豊富です。Pythonやプログラミング、データ分析と聞くと難しい印象を持たれるかもしれませんが、学生同士で学び合える環境が整っているため、着実に知識やスキルを習得できます。後輩の皆さんには、ぜひ安心して荒戸ゼミの門をたたいてほしいと思います。
今野さんは現在3年次ですが、4年次はどのような研究に取り組みたいですか?
具体的なテーマはまだ決めていませんが、統計学やプログラミングで学んだことを活かせる研究に取り組みたいと考えています。現在はPythonの基礎を学んでおり、4年次にはそのスキルを応用していければと思います。
ゼミで学んだことを、将来どのように活かしていきたいですか?
大学卒業後は、金融業界やメーカーなどの一般企業で働きたいと考えています。ゼミで培った統計学の知識、プレゼンテーションスキル、そして協力して問題を解決する姿勢は、どの業界でも活かせるものだと思います。どのような職種に就いても、これらの経験を基に自分自身の成長を目指しながら、企業の発展にも貢献していきたいです。
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※学生の所属・学年は取材時(2024年12月)のものです。
総合HP教員紹介ページ/
経済経営学部 准教授 荒戸 寛樹(あらと ひろき)