人文社会学部 専門教育科目 “社会人類学演習Ⅱ”
大学での授業スタイルは高校までとは大きく違いますが、実際にイメージするのは難しいかもしれません。そこで今回は、人文社会学部人間社会学科・社会人類学教室が提供する専門教育科目の「社会人類学演習Ⅱ」に潜入。担当教員の深山先生、河合先生、河野先生と、同教室所属3年次の丸山さんに授業内容や魅力を聞きました。
現場で養う思考力。フィールドワークで広がる研究の可能性
人文社会学部 深山 直子 准教授
東京都立大学大学院 社会科学研究科 社会人類学専攻 博士課程修了、博士(社会人類学)。ニュージーランド都市部を拠点に、先住民マオリの運動について多角的に研究。
人文社会学部 河合 洋尚 准教授
東京都立大学大学院 社会科学研究科 社会人類学専攻 博士課程修了、博士(社会人類学)。専門は、街や自然環境などの「景観」と人間の関係性を考える「景観人類学」。
人文社会学部 河野 正治 准教授
筑波大学大学院 人文社会科学研究科 国際公共政策専攻 博士後期課程修了、博士(国際政治経済学)。ミクロネシアの島々の伝統的な首長制から、政治的権威や儀礼経済の変化などを研究。
Q.「社会人類学」とは、どのような学問なのですか。
深山:社会人類学は、文化や社会の観点から、「人間とは何か」という問いに迫る学問です。例えば、本学の社会人類学教室では、中国でイスラーム教を信仰する少数民族がどのようなコミュニティを形成しているのかを調べたり、ケニアの地域社会ではどのような法の概念があるのかについて考えたりする研究などを展開しています。
河合:「文化人類学」との違いについて尋ねられることがよくありますが、基本的にこの2つの学問は、研究対象や研究方法に大きな違いはありません。「文化人類学」はアメリカで発展し、特に言語や習慣などの文化的な側面を重視して研究が行われる一方、「社会人類学」は社会学の影響を強く受けながらヨーロッパで発展し、社会構造や社会関係を重視して研究が行われてきました。本学の社会人類学教室は後者の流れを受け継いでいるため、「社会人類学」という名前を採用して、教育・研究活動を行っています。
Q.「社会人類学演習Ⅱ」では、何を学ぶのですか。
深山:社会人類学の研究で欠かせない「フィールドワーク」という調査手法の進め方を、実践形式で学びます。
河野:4月から7月までの前期では、テキストを使いながら座学でフィールドワークの方法論を理解します。特にフィールドワークでは、市井の人々を対象に調査を行うため、調査対象者の人権やプライバシーへの配慮、秘密保持といった倫理的なルールを守ることがとても大切です。こうした「調査倫理」についても、学生が実際にフィールドワークを行う前にしっかりと指導しています。
河合:必要な知識を得て、調査地に関する下調べも済ませたら、いよいよ調査の実践に入ります。今年は10月10日から14日にかけて神奈川県愛甲郡愛川町に宿泊。学生たちは3つの班に分かれ、多文化に配慮した教育や町独自のブランド、町の中にある各種制度などについてフィールドワークを行いました。具体的には、現地で暮らす人々や自治体関係者にインタビューを行ったり、町のお祭りや宗教施設を訪れて参与観察を行ったりと、調査を進めてもらいました。
深山:愛川町を調査対象に選んだ理由は、この町が国内でも珍しい国際色豊かな地域だからです。
河合:愛川町の住民の約9%は、日本以外の国々にルーツを持っています。世界の50近い国や地域から人々が集まっており、町には多言語の看板が並び、各国の文化的背景に根差した宗教施設やレストラン、食料品店も見られます。多様な国の人々が移り住んでいるため、「多言語機能消防団」など、外国出身の住民を支える町独自の制度も多いのが特徴です。愛川町での調査を通じて、フィールドワークの技術を身に付けるだけでなく、人口減少が進む一方で多文化化する日本の未来について考えるきっかけにもなればと考えています。
Q.授業の中で、学生のどのような力を伸ばしたいと考えていますか。
深山:この授業では、学生の自主性を重視しています。フィールドワークを行う場所は教員が決めますが、その後の調査・研究テーマは、学生自身が知りたいことを基に設定してもらいます。自分が知りたい、研究したいテーマを掘り下げるために、現地で何を観察し、誰にどのような質問をすればよいか。そうした調査の企画設計から実施まで、フィールドワークの一連の流れを全て経験してもらうことで、自ら「オリジナルなデータ」を集められるようになってほしいと考えています。
河合:その意味では、調査対象者への聞き取り不足といった失敗も、貴重な経験になると思います。失敗から学ぶことは多いので、現場を自分の目で見て、体感することの大切さと面白さをぜひ実感してもらいたいですね。
河野:どのような調査も、最終的には論文やレポートなどの形でまとめることが求められます。この授業では最終的な成果物を作成するので、レポートや発表用資料のまとめ方も身に付けられます。
深山:実は、調査をやり遂げることよりも、成果物をまとめることのほうが難しいかもしれません。現地で見聞きした物事をどのような文脈の中に位置付け、どのような言葉で表現するのか。膨大なデータのどの部分を分析し、どういうあらすじで結論に持っていくのか。本当に様々なことを考える必要があります。今年のフィールドワークはちょうど終わったばかりなので、これから学生たちが愛川町での調査を基に何を考え、どのようなレポートをまとめるのか、とても楽しみです。
受講した学生にお話を伺いました
社会人類学の分野でとても重要とされる「フィールドワーク」を
実践形式に学ぶこの授業。
受講した丸山さんが受講の理由や授業内容などをお話ししてくれました。
Q.この授業の受講を決めた理由を教えてください。
社会人類学の授業をいくつか受ける中で、フィールドワークが研究において非常に重要であることを実感しました。これから進級して卒業研究に取り組むにあたり、具体的な調査方法を実際に体験しながら学んで身に付けたいと思い、受講を決めました。
Q.丸山さんのグループは、愛川町で特にどのような物事を調査したのですか。
主に外国につながりのある子どもたちに焦点を当て、愛川町における「インクルーシブ教育※」の現状を調査しました。小学校や中学校の教員にインタビューを行ったほか、各国出身者のコミュニティの中心のひとつである宗教施設にも訪れ、現地の方々に話を伺いました。僕はその中でも、地域のキーパーソンとされる方の考え方に興味を持ったので、今後はその方が捉えている「愛川町で暮らす子どもたちの姿」や、町が抱える課題、従来の日本社会との違いなどについてさらに詳しく分析し、考察を加えながらレポートにまとめたいと考えています。
Q.授業で特に印象に残っていることはありますか。
先生方の観察眼の鋭さです。愛川町の寺院を訪れた際、先生が道中に立つ歴史的な石碑に供えられていた赤い線香と、その寺院の内部で使われていた線香が同じものであることに気付きました。そこから、寺院が町の住民にとっても重要な存在になってきていることを考察するきっかけを得られました。事前調査やインタビューの仕方、現場をくまなく観察して小さなことも見逃さない姿勢など、先生方から学んだ多くのことを卒業研究に活かしていきたいと思います。
取材を終えて(2024年10月25日の講義に潜入!)
調査から考察まで、フィールドワークで鍛える研究力
総合HP教員紹介ページ/
人文社会学部 深山 直子 准教授(ふかやま なおこ)
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人文社会学部 河合 洋尚 准教授(かわい ひろなお)
総合HP教員紹介ページ/
人文社会学部 河野 正治 准教授(かわの まさはる)