木造建築や古い建物の保存・再生を研究する「多幾山研究室」
指導教員による少人数体制の下、学生が興味あるテーマについて専門性を高めていく「ゼミ・研究室」を紹介するシリーズ企画。第3回目は、都市環境学部・多幾山法子先生の研究室です。
木造建築物の保全や再生、耐震補強などの研究に取り組む研究室です。
都市環境学部 建築学科 都市環境科学研究科 都市環境科学専攻 建築学域
多幾山 法子 准教授
広島大学工学部第四類(建設・環境系)卒業後、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士前期課程修了、同博士後期課程修了、博士(工学)。同専攻助教を経て2013年に首都大学東京に准教授として着任し、2020年より現職。専門は木質構造、建築振動学、建築保全再生学。2022年に日本建築学会奨励賞を受賞。
Q.まずは研究室の概要や扱うテーマなどを教えてください。
伝統構法や在来軸組構法で建てられた木造建築物を中心に、レンガを用いた組積造も対象として耐震性の向上を目指した研究をしています。現在は、SDGsや保全再生学の観点から、古い建物を利活用するためのフィールドワークや実験を重ね、新たな耐震改修技術の確立にも挑んでいます。
例えば、古い木造建築物の耐震性を評価するためには、様々な耐震要素の配置や寸法が必要なのですが、そのような情報を得るための実測調査や、建物の特徴的な揺れ方を把握するための振動計測などを実施します。実験では、耐震性を検証するために実大の架構試験体を設計・製作し、大きな力を与えて壊れ方を観察したり、試験体に設置した計測器類で収集したデータの分析をしたりします。さらに、接合部だけを抽出した試験体を設計し、同じく壊れ方を詳細に調べる要素試験や、その結果を基にモデル化を行いコンピューター上でシミュレーションを行うこともあります。
伝統木造建築物は、地域の歴史や文化に応じて構造上の特徴が異なるため、研究室で蓄積してきた既存のプログラムを組み直しながら、今後の耐震設計に役立つ新たな評価式を導き出しています。
Q.学生たちはどのような研究に取り組んでいますか?また、どのような力を身に付けていますか?
研究室の学生は、「伝統木造について研究したい」という明確な目的意識を持つ学生から、漠然と木造建築物に興味があり研究してみたいという学生まで様々です。研究内容は3年次後期のうちに決定しますが、大きく実験系・調査系・解析系に分かれます。4年次になると実験系の学生は実験装置や試験体の設計などを、調査系の学生は現地調査に向けた下調べを、解析系の学生は解析ツールの勉強をスタートさせます。いずれも研究が本格化するのは夏休み以降です。学生は自分で研究計画を立て進めていきますので、その中でノウハウが磨かれ、研究におけるデータ分析力や論文作成能力、プレゼンテーション能力などが向上します。また、学会での発表や、発表後の質疑応答を繰り返し経験することで加速度的に成長していく印象があります。
どのような研究であっても一人で研究計画を達成することは困難であることが多く、研究室のメンバーで協力し合い進めることがほとんどです。各自が研究テーマを持ちつつ、学年の垣根を越えて他のメンバーの実験や調査に協力します。周囲を巻き込んで自分の研究を進めるリーダーシップに加えて、自分以外の研究にも関わることで協調性や柔軟性も身に付き、幅広い知識も得られます。
Q.木造建築物を取り巻く国内状況や、具体的な研究事例を教えてください。
近年は、神社やお寺、お城などの古い木造建築物の修復を大手ゼネコンが手掛けたり、高層建築物においても一部を木造にしたりするなど、木造を取り入れた建築が流行しています。国策として国産木材の積極的な使用が推奨されており、補助金などの行政の後押しもあります。また、郊外でリモートワークをするために古い木造建築物を利活用する気運が高まっており、社員用に複数の古民家の購入を検討する企業もあるほどです。
一方、文化庁では「重要伝統的建造物群保存地区」の制度を設けており、歴史的な街並みを保存するための補助金給付を行っています。全国で約120の地域が指定され、当研究室ではその一つである福島県喜多方市と連携し、同市の街並みの特徴である土蔵の耐震調査や実大架構を用いた倒壊実験を実施しました。倒壊実験に用いる土壁試験体は、専門家や職人の助力を受けながら約1年半かけて製作しました。そして、地震時に建物が大きく変形することを想定して静的に力を加える実験を実施し、土壁のひび割れから剥落までの破壊現象を細かく分析した結果をまとめることができました。このデータを、土蔵の保存に必要な耐震性能と、その技術的な根拠として、同市に提示しました。
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もっと詳しく知りたい方はこちら → https://norikot8.wixsite.com/takiyama-lab
国内外で耐震補強技術の研究や歴史的建造物の保全や修復を進めています。
私は博士前期課程までは鉄骨造の解析を研究テーマとしていましたが、博士後期課程から古いレンガ造の耐震補強に関する研究をはじめました。そこから文化財の耐震性への興味が高まり、古い木造建築物の研究にたどり着きました。これまでには、木造建築物の耐震改修に新素材を用いることができないか検討するため、材料メーカーとの共同研究なども行っています。研究のフィールドは国内にとどまらず、例えばアジア圏の震災などで文化遺産が損傷した際には、他機関と連携した修復チームに加わり被災地で活動することもありました。現地では原因究明のために地震被害調査や材料試験などを行い、構造的な観点から建て直しの方法や修復方法を提案する役割を担ってきました。
地震大国だからこそ身近で歴史も感じる木造建築物を守っていきたい
「長野県の歴史的教会の構造調査に基づく構造種別の異なる躯体と木造小屋組の耐震性評価」など
「中規模木造建物の地震観測と複数開口を有する鉛直構面を考慮した解析モデル」など
「あと施工面格子壁の実大木造架構に基づく小壁の破壊メカニズムの分析」
伝統的な木造建築物に構造面からアプローチ
多幾山研究室を選んだ理由を教えてください。
学生同士の協力が幾重にもメリットを紡ぎ出す研究室
江森さんの実験に研究室全体で取り組まれた際の感想を教えてください。
過去に卒業生が実施した実験では、格子が割裂して耐力低下を招く現象が確認されました。格子の損傷の仕方は格子を囲む外周部材の曲がりやすさに影響を受けるのではないかと考察し、私の研究ではこの課題を明らかにすることを目指し、格子の外周部材を曲がりにくいものに替えた架構試験体を用いて検証しました。実験では静的に力を加えて架構全体を変形させ、格子の接合部等の変形量を細部まで計測しながら破壊の進展を観察したのですが、格子の損傷も抑えられて耐力も向上したことがわかり、想定どおりの結果が得られました。今回の結果を受けて今後さらに研究を進めていきたいと思います。
多幾山研究室なら、主体的にアクティブに研究を進めていける
最後に改めて研究室の魅力を教えてください。
※学生の所属・学年は取材時(2023年11月)のものです。
木造についてとことん研究したい方をお待ちしています!
建築学には、意匠・計画、歴史、都市計画、環境・設備、構造や構法・材料など、様々な専門分野がありますが、私の研究室にはとりわけ木造に興味を持った学生が多く在籍しています。
ゼネコンやハウスメーカーへの就職を目指す学生から、多様な工法の一つとして木造を学びたいという学生まで、少しでも木造に興味を持ったら「多幾山研究室」を検討してみてください。
総合HP教員紹介ページ/
都市環境学部建築学科 准教授 多幾山 法子(たきやま のりこ)