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2023.12.11
私の研究最前線 シリーズVol.6

理系の分析方法を考古学に応用する、Bioarchaeologyで新しい歴史像を描き直す

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新たな研究成果や研究の魅力、醍醐味などを語ってもらうシリーズ企画「私の研究最前線」。第6回目は、研究課題「日本列島域における先史人類史の統合生物考古学的研究―令和の考古学改新―」が、文部科学省・日本学術振興会の令和5年度「文部科学省科学研究費助成事業・学術変革領域(A)」に採択された人文社会学部の山田康弘教授にお話を伺いました。

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山田 康弘教授
人文社会学部 人文学科 山田 康弘教授

筑波大学第一学群人文学類卒、筑波大学大学院博士課程歴史人類学研究科文化人類学先史学専攻(中退)、博士(文学)。土井ヶ浜遺跡人類学ミュージアム学芸員、島根大学法文学部教授、国立歴史民俗博物館研究部教授などを経て、2020 年より現職。日本の縄文時代・弥生時代を中心に研究。メインテーマは墓制論・社会構造論。

Q.先生のご専門についてお聞かせください。

 私は縄文時代・弥生時代を中心に、中でもお墓のあり方、つくり方などから当時の社会構造について考える墓制論を主な研究テーマとしています。
 現在、私が進めているのは考古学と人類学の両方にまたがった学問領域で、骨考古学・Bioarchaeology(生物考古学)という新しい分野です。遺跡から出土した人骨から得られるDNA・同位体・形態などの情報を分析して、当時の社会や精神文化を復元する研究です。Bioarchaeologyの領域は、人骨だけではなく、動物や植物にも適応しています。Integrative Bioarchaeology(統合生物考古学)と呼ばれ、出土した動物の骨のDNAやストロンチウムの分析をすると、埋められた動物がどの地域からきたものかを調べることができるなど、人・動物・植物などあらゆる生物の生死のプロセスを復元することができる学問分野です。
 Bioarchaeologyで活用されている理化学的な手法は、今までの考古学的手法だけでは仮説に終わってしまう部分を補ってくれるものです。例えば、お墓に人骨が2体合葬されていた時に、この2人が親子なのか兄弟なのか、ある程度の仮説は立てられますが、事実を検証することが今まではできませんでした。それを理化学的な手法であるDNA分析とあわせることで検証が可能になりました。仮説の蓋然性を重視する学問だった考古学が、検証可能なサイエンスとしてシフトチェンジしたわけです。

Q.令和5年度「文部科学省科学研究費助成事業・学術変革領域(A)」にも、ご採択されました。

 採択された研究課題は、「日本列島域における先史人類史の統合生物考古学的研究―令和の考古学改新―」です。人骨や動植物遺存体などの出土資料を主たる対象に、現在の考古学的手法による研究に加えて、放射性炭素などによる年代測定、炭素・窒素およびストロンチウムやフッ素などによる同位体分析、ゲノム(DNA)分析などの自然科学的な手法を織り交ぜて、歴史の再構築を企図する総合的学問領域であるIntegrative Bioarchaeologyの確立と展開を目指すものです。3つのカテゴリーに分け、11の計画研究を推進していきます。

Integrative Bioarchaeologyの概念図
Integrative Bioarchaeologyの概念図

Q.先生は、どのようにして考古学の研究に進まれたのでしょうか。

 小学生の頃から土器や石器に興味があり、大学時代は考古学を専攻しました。卒業論文では縄文時代前期の土器の編年をまとめようと考えていました。しかし、当時の指導教官に「土器をまとめただけの論文では面白くないのでは」と指摘されてしまい、もう一度論文内容を再考しました。その結果、お墓や精神文化など、考古学で直接的に語るのが難しい研究に挑戦することになったのです。
 論文テーマは、以前研究していた土器の知識を活かせることもあり、「土器棺墓(どきかんぼ)」という新生児の特殊な埋葬方法に着目しました。ただ子どもといっても、新生児と幼児、小児と年齢段階で大きな違いがあります。調べていくと、土器棺墓には生まれたばかりの新生児しか入っておらず、2~3歳ぐらいの幼児は女性と合葬されるケースがあることがわかりましたが、男性との合葬はない。しかし、幼児期後半になると、男性との合葬例が増える。このことからおそらく離乳をした段階で、男児は男性と、女児は女性と生活するようになったのではないかと考えられます。埋葬された子どもを調べることで、縄文時代には、新生児、乳児、幼児、小児という年齢段階によって社会的区分があることが見えてきました。
 一方、大人の場合、人骨から細かく年齢査定を行うことは難しくなります。たとえば、頭蓋の縫合線は若いうちには開いているのですが、年を取るにつれ内側からくっついてしまい、20歳間隔ぐらいでしか年齢査定ができなくなるのです。しかし、どのようなアクセサリーを身に付けているか、埋葬方法はどうかなどに着目することによって、年齢差を見分けることができると判明しました。土器棺墓から始まり、これらの研究をつなげていくと、縄文人の一生が描ける。そこに気付き、墓制と年齢・性別のつながりの研究をスタートさせました。

Q.なぜ考古学で自然科学的手法を活用した研究が先行しているのでしょうか?

 縄文時代の研究が先に進んだ理由は、出土した人骨の数が多いためです。弥生時代の人骨は東日本ではほとんど見られません。古墳時代は、集団墓地はあっても貝塚等が作られなくなるので、骨が残っていない。古代になると仏教の影響によって火葬になってくるため残らないのです。
 とはいえ、縄文時代の墓を調査し、考古学の仮説を検証するといった一連の手順は、他の時代にも十分に応用が可能です。奈良時代や平安時代、中世など、文献の上で仮説が立てられていた様々なことが、直接人骨を使って検証できる。そうなると、歴史における人のつながりや家族の在り方、社会構造が、これまでの説とは変わってくるかもしれません。紙に残る記録は実際とは異なることも多いので、有名な史実、著名な人の家系図が書き換えられる可能性もあるでしょう。

Q.DNA分析などの自然科学的手法に着目されたわけは?

 大学院生の頃、東京大学で人類学を研究されていた太田博樹先生とお会いしたことがきっかけとなりました。お互いの研究領域について話している中で、考古学と人類学を融合させてDNA分析を活用すれば面白い研究になるのでは、という話題で意気投合したのです。その後、私が国立歴史民俗博物館に転任した際に、愛知県の保美貝塚で共同発掘する機会を得て、そこで出土した人骨を形質・DNA・同位体などの人類学的考察を行ったところ、一定の成果が出たため他の遺跡にも広げていきました。
 当時はまだ日本でそうした研究は少なく、予算も限られていたのですが、三島の国立遺伝学研究所の斎藤成也先生が「ヤポネシアゲノム」の研究で2018年度から2022年度まで新学術領域研究として科研費を獲得されており、それを引き継ぐ形で、Bioarchaeologyを中核に据えて進めてきました。
 DNA研究が進んで分析しやすくなったことも、研究を後押ししました。以前は歯から検出したDNAを使っており、良い成績に結びつきませんでしたが、現在は頭蓋の耳の裏側にある側頭骨錐体部からDNAが取りやすいことがわかったことで、一気に研究が広がりました。
 人間のDNAには2種類、ミトコンドリアDNAと核DNAがあります。ミトコンドリアDNAは母系遺伝しかせず、身体の遺伝的形質には関係ないことがわかっているので、女性と子どもの合葬例であれば、2体のミトコンドリアDNAを調べることで、それが親子かどうか判断できます。ところが、愛知県伊川津貝塚から見つかった、女性のお腹の上に子どもが埋葬されたケースを調べてみると、親子ではないことがミトコンドリアDNAの分析でわかりました。年齢的には40代の女性と5~6歳の子どもでしたので、父方の祖母と孫の埋葬例だったと想定されます。そのような家族の系図を調べていくうちに、どうやら縄文時代は一夫多妻的な構造をもっていたのではないかという仮説にたどり着きました。
 このように、かつて考古学者が立てた仮説が、DNA分析によって否定されたり、修正を余儀なくされたりすることが頻発しており、考古学はその研究方法を根底から変えることが必要とされています。まさに、大きな転換期を迎えていると言ってよいでしょう。

頭蓋からDNAを採取。耳の後ろに、高い確率で採取できる場所が見つかった。
頭蓋からDNAを採取。耳の後ろに、高い確率で採取できる場所が見つかった。

Q.文系と理系の両側面から考古学の研究を進める難しさはありますか?

 日本では、考古学という学問領域は歴史学の一部に属していたため、文系に分類されていました。しかし、Bioarchaeologyが今後考古学のスタンダードになっていくことを考えると、文系理系の垣根なしに両方に精通するハイブリットな人材を育てていく必要があります。文系的アプローチと理系的アプローチの両面を、学生たちに指導するのは難しい部分もありますが、ただ1つはっきりしているのは、Bioarchaeologyを研究するためには、考古学的な基礎がなくてはだめだということです。骨が出たらとにかくDNA分析すればいいということではない。まずは今までのデータから検証すべき問題設定をしなくてはなりません。そのためには、多くの考古学的知識が必要です。そして仮説を立て、それに見合った形の分析手法、DNAなりストロンチウムなりで分析を進め、共同研究でその仮説の妥当性を判断する。うまくいかないならもう一度仮説を組み直す。仮説を立て、検証をする、この繰り返しが重要なのです。
 考古学の学生は、考古学の研究室の中だけで育っていくことが多く、DNAの学生はDNAの研究室の中だけで育つことが多いですね。しかし、ハイブリッドな研究者を育成するためには、教員同士で交流するだけでなく、学生の頃から交流し切磋琢磨しなければ意味がありません。私自身、そのような人材育成に取り組みたく都立大に赴任した面もあります。

Q.都立大の研究環境に期待していること、やりたいことはありますか?

 都立大は研究者育成の役割も担っていますから、ぜひ新しいハイブリッドな研究者を育てるための土壌をつくりたいと考えています。理系の学生が文系の講義を履修しても、学生自身との接点がないと内容が深く理解できませんから、いかに接点をつくっていくかが課題の1つです。先日、大学院で文系・理系の学生が集まった場で話をする機会があったのですが、大学院生の皆さんは、自分の研究がどのようなことに応用できるのか、また話を聞いて自分の研究をもっと発展的に展開していけるのではないかなど、視野を広げて発言してくれました。この議論のなかで学生が自分との接点を得て、個々の研究テーマが大きく広がっていくのを感じ非常に有意義な時間でした。
 大学を問わず学生の交流を盛んにすることも重要です。最近、近くにある中央大学の学生さんが所定の手続きを経て私の授業に参加してくれていますが、新たな学生同士の交流が生まれています。
 様々な知識を持つ学生が交流できる場所、いろいろな気付きを持ち帰ることができる場所として、都立大がキーポイントになる、それだけのポテンシャルがあると考えています。都立大は開明的でフレキシブルな感覚をもった大学です。学部・学問を越えて、もっと自由に参加できる授業があったら必ず面白い発想や研究につながることでしょう。そのような授業の成績評価の仕方も含めて検討できれば、文理融合はもっと進むと期待しています。

Q.最後に学生へメッセージをお願いします。

 都立大の学生は真面目で頭が良い学生が多い。教員側がさらに良い働きかけをしてあげられたら、花開く学生がさらに増えると思います。
 考古学は拘束時間が長く、正直人気はあまりありません。発掘調査やフィールドワークなどの実習が多く、実習は楽しいのだけれど、実習から持ち帰った遺物の整理があるため時間がかかります。学生生活との両立を考えると、考古学の学びを深めていくには少し時間が足りないと考える学生が多いのだと思います。
 今は考古学と人類学のハイブリッドな研究者育成など種まきをしているところですが、一方で考古学から始めるのではなく、人類学を専攻している学生が考古学に興味を持ってくれることも多いのです。私の研究室には、人骨だけでなく動物や植物の遺伝子を分析したいと考えている学生もいます。私はたまたまお墓に興味を持ち研究を始めましたが、Integrative Bioarchaeologyの中では幅広い分野で、考古学というものが捉えられています。他分野の研究の話を聞くのも非常に楽しいものです。今後、様々な分野から、さらに考古学を楽しく発展させることのできる学生が集って来てくれることを期待しています。

山田教授の著書
(写真左)数ある先生の著書から。一般の人にもわかりやすく興味が持てるよう解説されている。『縄文人も恋をする!? 54のQ&Aで読み解く縄文時代』ビジネス社2022年
(写真右) 研究の進展によって、従来の縄文人像が次々と塗り替えられていることに改めて驚く。『縄文時代の歴史』講談社現代新書2019年
山田教授

総合HP教員紹介ページ/
人文社会学部 人文学科 山田 康弘 教授(やまだ やすひろ)
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