東京都立大公式WEBマガジン
2023.05.16
ゼミ・研究室レポート Vol.2

システムデザイン学部インダストリアルアート学科 ヴィジュアルコミュニケーションデザインスタジオ

この記事を共有する

指導教員による少人数体制のもと、学生が興味あるテーマについて専門性を高めていく「ゼミ・研究室」を紹介する新たなシリーズ企画。第2回目は、システムデザイン学部・菊竹雪先生の「ヴィジュアルコミュニケーションデザインスタジオ」です。

キービジュアル
ヴィジュアルコミュニケーションデザインスタジオ
2023年1月撮影

ヴィジュアルコミュニケーションデザインの意義を学ぶ、社会実装プロジェクトへの取り組み

社会構造の変化や文化認識、生産システムの変化など、様々な時代変動のなか、どのような考えのもとで、どのような表現を作り出せば、新しくかつ普遍的なヴィジュアルコミュニケーションデザインが生まれるかをテーマに研究を行っているヴィジュアルコミュニケーションデザインスタジオ*。今回は、スタジオを率いる菊竹雪教授が2022年度に学生たちと手掛けた2つの社会実装プロジェクトを紹介します。

*インダストリアルアート学科では、ゼミ・研究室を「スタジオ」といいます。

システムデザイン学部 インダストリアルアート学科
多摩美術大学客員教授 グラフィックデザイナー
菊竹 雪 教授
菊竹 雪 教授

日本デザインセンターを経て、1990年株式会社コンパッソ設立。1994年度文化庁派遣芸術家在外研修員として、英国Royal College of Arts在籍。
社会やコミュニティに展開するヴィジュアル・コミュニケーションデザインおよび建築空間に展開するヴィジュアル・コミュニケーションデザインの研究を行っている。

著書:『Super Graphics,The Works of Yuki Kikutake』 青幻舎、2018年
受賞:JAGDA新人賞、JCDデザイン優秀賞、SDAデザイン大賞、グッドデザイン賞、英国D&ADイエローペンシル賞、ブルネル賞等

プロジェクト1
一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントとの産学連携共同研究

一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントと当スタジオは、2016年4月から渋谷駅周辺におけるメディアの開発と社会実装に関する産学連携研究の取り組みをはじめました。渋谷駅前エリアマネジマントのコンセプト「SHIBUYA + FUN(遊び心で渋谷を動かせ)」の一翼を担うべく、2019年までは渋谷駅前再開発事業における様々な工事現場仮囲いを、渋谷とヒトをつなぐメディアとして活用し、企業広告とは一線を画するヴィジュアルコミュニケーションデザインを提案してきました。2020年度からは毎年、15秒で渋谷の魅力を発信するモーショングラフィックスを数案提案し、渋谷スクランブルスクエア大型ビジョンで放映していただいています。
このような産学連携研究を続けているなか、2022年1月には「ゼミ展2022」において、3DPhantom®︎機材を使ったモーショングラフィックスを制作し展示しました。また展覧会での成果を踏まえて、2022年7月から渋谷フクラス接続デッキで3D Phantom®︎機材24台を使ったモーショングラフィックスの社会実装を行いました。

More

もっと詳しく知りたい方はこちら → 渋谷スクランブルスクエアにて2022年度放映された映像作品

「ゼミ展2022」モーショングラフィックスの展示

東京ミッドタウン・デザインハブで開催された第95回企画展「ゼミ展2022」は、デザインを教育・研究する大学7校が参加して、各校の取り組みを紹介する展覧会です。
当スタジオでは、3DPhantom®︎という、LEDが配置されたブレードを回転させることで、残像効果により背景の透けたホログラム映像を投影できる機材を使用し、アルファベット「VISUALCOMMUNICATION DESIGN」の3次元表現動画と、ロトスコープという技法を使った手描きの線画アニメーションの2点を制作しました。ロトスコープは、実際に撮影した映像をトレースしてアニメーションを制作する手法ですが、大学から六本木の展覧会会場までの映像を学生が撮影し、8人の学生で1500枚の映像をトレースして制作しています。
展覧会では、3台の3DPhantom®︎を横一列に並べて、文字の三次元表現と線画アニメーションの二つの映像を再構成し展示しました。3台同時に同じ映像を流したり、時間をずらして同じ映像を流したり、両端と真ん中で別の映像を流したりと、二つの映像でありながら多彩な表現になるように検討しました。

3次元表現動画を活用した「VISUAL COMMUNICATION DESIGN」のアルファベット
3次元表現動画を活用した「VISUAL COMMUNICATION DESIGN」のアルファベット
ゼミ展2022 展示風景
ゼミ展2022 展示風景
More

もっと詳しく知りたい方はこちら → 「ゼミ展2022」で展示された映像作品

この映像作品は厳選な選考を通過し、年鑑『Graphic Design in Japan 2023』(日本グラフィックデザイン協会発行)に掲載されることになりました。年鑑は2023年夏刊行予定です。


ゼミ展2022

会期:2022年1月10日~2月15日
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ
詳しくはこちら

渋谷フクラス接続デッキでのモーショングラフィックス実装
(2022年7月~12月)

渋谷駅と渋谷フクラスを地上2階レベルで結ぶ歩行者デッキに設置されている3DPhantom®︎を使用し、2022年7月から「ゼミ展2022」と同様、アルファベット「SHIBUYA + FUN」の3次元表現とそのテキストを万華鏡として再構成した映像を24台の3DPhantom®︎に投影しました。全て背景を透過させるために黒バックに白色の線画で表現し、アクセントに「+」だけ色彩を散りばめて場面展開のきっかけとしています。
「SHIBUYAFUN」10文字の一文字ずつを学生一人ひとりがデザインを担当しその動きは全て違っています。個々の文字の線の太さや文字の動きの収まり方に加えて、全体の統一感を出すために学生間で意見交換しながら進めました。
表現に加えて、制作した動画を24台の3DPhantom®︎でどう放映するかにこだわりました。通路を歩く人を飽きさせないために、現地の写真に映像をはめこんだ動画を制作して試行を繰り返し、同時に同じ映像を放映するだけでなく、タイミングをずらして「SHIBUYA + FUN」が一堂に見える放映方法についても検討しプログラミングしています。

学生の声
学生の声
万華鏡パートは最初スムーズに繋ぎ合わせることが難しく、何度も調整を重ね、万華鏡の開くタイミングや速度にこだわりました。
テキストの集合体が万華鏡に
テキストの集合体が万華鏡に
3D Phantom®に投影された「SHIBUYA」のアルファベット
3D Phantom®に投影された「SHIBUYA」のアルファベット
3D Phantom®に投影された「SHIBUYA」のアルファベット

プロジェクト2
八王子市との官学連携受託研究

当スタジオは八王子市まちなみ整備部まちなみ景観課から研究依頼を受けて、東京たま未来メッセの2022年10月オープンにあわせて、訪問者を歓迎する八王子駅北口周辺のフラッグや仮囲いのデザインプロジェクトに取り組みました。
はじめに、八王子市から文化・産業に関わる話を伺うとともに、職員の皆さまとスタジオのメンバーで八王子駅周辺の街歩きを行い、街の歴史や現状を把握するとともに、どういったフラッグを掲出するのが効果的かを考えました。
私はデザインプロジェクトを進めるうえで、教員がクリエイティブディレクター、アートディレクターとしてプロジェクトの方向性を学生に指し示すことがとても重要だと考えています。方向性がぶれることがないように見守ることができれば、あとは学生が自由に力を発揮できると考えるからです。
今回のプロジェクトにあたり、私から3つの方向でフラッグデザインを考えるように学生に提示しました。

1) フラッグの色は「藍色」デザインは「白色」
街歩きをして駅前周辺は屋外広告物も多くカラフルで雑多な印象を受けました。そこでフラッグが多数掲出されたときに通りに一体感がでるように、一見目立たないと思われる「紺色」「黒色」などの中から、八王子の伝統工芸である染物にちなんで「藍色」を選択しました。フラッグが現代的な暖簾になることを想定しています。
2) デザインモチーフは「八」
3) 藍染の独特の滲みやぼかしをデジタルに再現する
4) 八王子ブランドロゴマークを下部に掲載「あなたのみちを、あるけるまち。八王子」

以上のディレクションから、学生はまず市内の工房で藍染を体験し、製作プロセスとともに藍染による藍色の色彩やにじみ具合を確認しました。
その後『日本の伝統色』を参考にして、色味や濃度を微妙に変えて数十色を出力して比較し、藍染の藍色をデジタルで再現できるように試行錯誤して最終色を決定しました。

藍染体験や街歩きなど学生が自主的に行った
藍染体験や街歩きなど学生が自主的に行った
学生の声
学生の声
藍染めの藍色を印刷上でどう再現するかとても悩みました。色味や濃度の違う藍色を数十色印刷して比較し、「印度藍」という濃厚な色合いの藍色を採用しました。
色の再現に試行錯誤しながら、理想的な「藍色」を見つけた
色の再現に試行錯誤しながら、理想的な「藍色」を見つけた
色の再現に試行錯誤しながら、理想的な「藍色」を見つけた

モチーフである「八」は、「8」「ハチ」「EIGHT」「VIII」や「八個の何か」に置き換えたり、「八」の漢字は末広がりの形で縁起が良いこと、「8」を横にすると「∞」無限大の記号になったりと希望的な意味があることに気付き、学生それぞれがイメージを広げて33種類のデザインを制作しました。さらに、33種類のデザインに、Adobeイラストレータの様々なツールを駆使して藍染の独特の滲みやぼかしを再現しています。

学生たちが考え出した33種類のフラッグデザイン
学生たちが考え出した33種類のフラッグデザイン

東京たま未来メッセ前に位置する、八王子市保健所跡地の再整備工事仮囲いデザインについては、フラッグデザインの全貌が見えてから取りかかりました。仮囲い横の歩道にフラッグが掲出されるので、フラッグデザインの要素を取り入れながら、仮囲いの高さ3mという大きさを活かしたデザインを検討しました。施工予算が限られているなかで最大限の効果を出す方法として、高さ3m・幅3mのスペースを5箇所選定し、5種類のフラッグデザインを大胆にトリミングして掲出する計画を検討しました。学生は高さ3m・幅3mの大きさ、規模感覚を把握するために、仮囲い全体模型を制作して模型上でデザイン案をまとめていきました。

藍染独特の味が表現できるようぼかし加工を再現した
藍染独特の味が表現できるようぼかし加工を再現した
フラッグの要素を取り入れながら大きさを活かした仮囲いデザイン
フラッグの要素を取り入れながら大きさを活かした仮囲いデザイン
フラッグの要素を取り入れながら大きさを活かした仮囲いデザイン

八王子市へのデザイン案プレゼンテーションは、本学にて学生主体で行いました。フラッグは33種類のデザイン全て原寸で紙に出力して展示し、実際の大きさとデザインを体感・確認していただきました。また仮囲いデザインについても模型で実際の大きさを感じとっていただけるように準備しました。学生が八王子市にデザイン案を理解してもらえるよう用意周到に準備をして、具体的に説明するとともに情熱的にデザインに対する思いを伝えられたことで、八王子市担当者の方々の評価を得て、まちへの掲出が決定しました。その後も実装に向けて微調整を行い、制作会社に入稿し色校正なども学生とともに行い9月末の掲出に至りました。

プレゼンテーション風景
プレゼンテーション風景
仮囲いの説明は、模型を作りわかりやすく工夫した
仮囲いの説明は、模型を作りわかりやすく工夫した
実際の大きさで体感してもらうために全デザインを貼り付けた
実際の大きさで体感してもらうために全デザインを貼り付けた
実際の大きさで体感してもらうために全デザインを貼り付けた
八王子駅前の街並みに掲出されたフラッグ
八王子駅前の街並みに掲出されたフラッグ
     
フラッグ掲出

期間:2022年9月〜2023年9月(予定)

※学生の所属・学年は取材時(2023年1月)のものです。

総合HP教員紹介ページ/
システムデザイン学部 インダストリアルアート学科 教授 菊竹 雪(きくたけ ゆき)

TOP