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2023.03.13
先生、これってなぜですか? Vol.5

チコちゃんに叱られないように「山ってなに?」を詳しく教えてください!

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日常で見聞きし体験していることの中には、「これって、どうなっているのだろう?」「なんで?」と思っていることがありませんか。そんな疑問に、本学の教員がご自身の研究を通してお答えします。

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鈴木 毅彦 教授
都市環境学部 地理環境学科 鈴木 毅彦 教授

東京都立大学理学部地理学科卒業後、同大学院理学研究科地理学専攻博士課程修了(理学博士)。日本学術振興会特別研究員や、同学科・研究科の助手、助教授、准教授を経て2009 年より現職。専門は、自然地理学、地形学、第四紀学、火山学。現在は都立大の島嶼火山・都市災害研究センター・センター長のほか、伊豆諸島6火山防災協議会委員や、国土地理院治水地形判定委員会委員も兼務。著書に『日本列島の「でこぼこ」風景を読む』(ベレ出版)などがある。

疑問:山の研究では、どのようなことを解き明かすことができますか?

鈴木先生
鈴木先生
答え:数100万年という時間をかけて現在の地形や景色を生み出した地球の営みが見えてきます。

Q. まずは、山が形成されていくメカニズムを教えてください。

 日本は国土の約4分の3が山地や丘陵地ですが、山は、火山か否かで分類されます。火山はマグマが地表に噴出し、溶岩や火山灰などとして積み重なっていくことでつくられるもの。富士山もそのひとつです。一方、火山ではない山は、地球の表面を覆っているプレートが動き、岩盤に力がかかり隆起することで形成されます。平面に置いた1枚の紙を地球表面の地盤に例えると、両端から中心に向かって力を加えれば、紙の中心が盛り上がるはずです。実際にはプレートはいくつもありますので、力の加わり方次第で複数の山が連なる山脈なども生まれます。これが隆起によって山ができていくメカニズムであり、2023年2月に放送されたNHK総合テレビの『チコちゃんに叱られる!』でも、“5歳でもわかるように”とのリクエストを受けて“おでき”と“しわ”に例えて同様に説明しました。
 この隆起によって山が形成されるまでの時間は、私たちの日常生活や一生と比べれば桁違いです。そもそも日本列島は約1,600万年前に大陸から切り離され、徐々に現在の太平洋側に移動していきました。そして、現在私たちが目にしている平野部の地形ができたのは数10万年前。そこに至るまでに、山は数100万年という時の流れを経て形成されていきました。かつては海底にあったような地層が隆起によって上に移動し、山を形成していくため、山から離れた場所でも、山が隆起した際に削られて運ばれてきた地層が残っているケースもあります。その地層を調べることで、いつ頃から山が高くなっていったのかがわかるのです。

山の隆起パターン
山の隆起には、プレートが曲線状に盛り上がるパターンと、プレートが分断されて「断層」が生まれるパターンがあります。

Q. 現在進めている研究内容を教えてください。

 私は山に限らず、地理・地形が専門ですので、現在は関東平野の成り立ちを解き明かす研究を進めています。平野部の隅から隅まで訪れ、地下の地層に含まれる火山灰を調査・分析しています。例えば、ある場所で約100万年前の火山灰を含む地層が見つかったとしたら、それと同じ火山灰が別の地層では何メートルの深さにあるのかを各地で調査します。同じ火山灰が見つかれば、当時の地表がどのように地下に潜っていったのか、地形の動きを知る手がかりになるからです。
 また、その火山灰の性質を調べると、どのエリアの火山から噴出したものであるかも推測できます。都立大では、電子顕微鏡などを用いた火山灰の成分分析に力を入れており、研究環境は国内屈指。火山灰をもとに昔の地形や噴火の状況を考察する研究で、豊富な知見が蓄積されています。例えば、約100万年前には東北地方で大きな噴火が繰り返されていたこともわかっています。現在、九州には桜島や阿蘇山など、大きな噴火を引き起こすカルデラ火山がありますが、かつては東北地方がそのようなエリアだったのです。
 なお、火山の近くに積もった火山灰を調べることがオーソドックスな研究方法ですが、火山から離れていても、各地から飛来した火山灰が良好な保存状態で地層に残っているケースもあります。例えば、福井県にある三方五湖の一つ、水月湖の地層に含まれる火山灰の研究では、遠く伊豆諸島や九州から飛来した火山灰が残されていることを示す論文も出されています。

浅間山や阿蘇山など、全国各地で採取した火山灰
浅間山や阿蘇山など、全国各地で採取した火山灰。9万年前、10万年前のものもあります。

Q. 火山は今後噴火する可能性もあるので心配ですが、何か対策はありますか。

 噴火の規模や発生頻度は様々ですが、過去の噴火を分析すれば、将来もある程度は予想できるものです。未来を知るためには、過去を知らないといけませんし、将来起こる可能性のあるものは、地球の長い歴史の中で、過去のいつかの段階で起きていたものです。今まで一度も起きなかったことが、将来いきなり起こるとは考えにくいのです。
 ですから、火山が災害を引き起こすとしても、将来をある程度予測した上で対策方法も考えられますし、きちんと対策を講じれば減災にもつながります。実用的な防災対策に向けた研究として伊豆諸島での研究も進めてきており、私がセンター長を務めている都立大の島嶼火山・都市災害研究センターでも情報発信をしています。伊豆大島や三宅島は、近年でも噴火を繰り返していますので、噴火によって想定されるいくつかのシナリオに沿って準備しておくことが大切です。それは地震対策でも同じであって、家具の固定をはじめ、できる対策を着実に進めることが重要だと思います。

軽石
福島県会津地方の火山が約5,000年前に噴火した際の噴出物である軽石。約5,000年前とはいえ、火山研究の分野では“新しい”軽石だといいます。

Q. 火山のほか、人為的な要因で起こる山の災害もありますよね。

 専門からは外れますが、森林伐採は隣接分野として関心がありますし、「切土」や「盛土」といった人為的な地形の変化も研究しています。都立大の南大沢キャンパス周辺は、かつては現在よりも起伏の激しい地形でした。ただ、多摩ニュータウンとして開発を進める際に、そのままの地形では街としては不便だったため、高い部分を削る切土や、谷間を埋める盛土で平地を増やした経緯があります。中には30メートル近い厚さの盛土が行われた場所もありますが、どうしても盛土では地盤の強度が弱く、大地震が起これば地滑りなどの災害につながりかねません。そこで、等高線が書かれた古い地図と新しい地図を比較し、“盛土マップ”を作成したエリアもあります。
 この地盤の強度は土木工学や地盤工学の領域になりますが、そもそも私は“地図好き”から始まって地理や地形学を学び、その後、地層の研究をとおして地質学にも足を踏み入れ、現在は分け隔てなく研究しています。また、地形の歴史を紐解いていくと人類の歴史とも関わるため、考古学や人類学も隣接する領域として関心を深めてきました。このように、多方面に“手を出して”きたわけですが、それは山をはじめとする自然の地形には、探究心をそそられる要素が豊富だからです。もちろん“目の付け所”は人それぞれですが、普段何気なく目にしている山や川、谷、さらには高山植物や野生動物といった山間部の生態系でも、自然に触れて何か少しでも気になることがあれば、まずは調べてみることを習慣づけてほしいと考えています。仮に私のように“入口”は地形への興味でも、隣接分野が豊富だからこそ、研究を深めていく過程で将来に向けた可能性が広がりますし、就職面でも選択肢が増えていくはずです。もちろん自然科学に限らず、人文科学や社会科学、福祉分野でも、興味を持った分野への探究心を持ち続けてくれることを願っています。

鈴木先生ご自身のことについて

Q. 先生がこの分野に進んだきっかけを教えてください。

 現在の研究活動の原点は、小学生時代までさかのぼります。東京で暮らしていたため起伏のない場所がほとんどでしたが、所々に谷のようになっている場所がありました。地図を見て高い場所や低い場所があることや、川が流れていることなどを認識した上で、実際にその場所を訪れて景色を眺め、地図との“答え合わせ”をすることが好きでした。当たり前といえば当たり前ですが、実際の地形と地図を照らし合わせることに楽しさを感じていました。
 その後、中学生になると行動範囲が広がり、高尾山をはじめとした東京都の山々を訪れました。また、高校時代には部活動で山歩きをするようにもなりました。山は、地図上でも平野部とは異なる描写がされていますし、実際に起伏の激しい山の地形を体感しながら、地図の忠実さに感動を覚えることもありました。山ではキャンプもしましたし、自由で楽しい高校生活でした。
 こうした経験から、将来は趣味の延長で地図をつくるような仕事がしたいと考え、大学は都立大の地理学科を選びました。ただ、入学してわかったのは、山や谷といった地形ができていくプロセス自体が研究の対象になるということ。今考えればこれも当たり前なのですが、研究職という未知なる世界を知ったことで地形の見方が変わりました。地図を見てから歩いて楽しむための対象から、その成り立ちを研究する対象として地形を捉えるようになり、現在に至っています。

青森県にある約1万6千年前の十和田火山から噴出した火砕流を調査した際の一枚
青森県にある約1万6千年前の十和田火山から噴出した火砕流を調査した際の一枚。現在でも時間と体力の許す限り、実際にフィールドを訪れて調査をしています。

Q. 最後に、これから専門的に山や平野の地形を勉強したいという学生にアドバイスをお願いします。

 都立大の南大沢キャンパスの周辺には、多摩ニュータウン造成のためにできた人工的な地形以外にも、山や地形を学んでいくための“教材”が少なくありません。例えば、高尾山は10万年前以前には、既にほぼ現在の姿になっていたと考えられていますが、そこに至るまでには、かつて海底にあった地層が長い年月をかけて隆起していった歴史があります。
 また、2022年6月に放送されたNHK総合テレビの『ブラタモリ』では、東京都町田市周辺の多摩丘陵が紹介されました。実は私も出演し、相模川が流路を変える過程で多摩丘陵が形成されていった歴史などをコメントしました。
 ただ、もちろん興味に応じて研究フィールドは自由です。私の研究室でも、日本アルプスにおける昔の氷河の地形に興味を持った学生や、秘境と呼ばれるような山の地形について調査を進めた学生もいました。学生が主体的にフィールドを決めて、一人で調査を進めながら研究を深めていくことを重視していますが、アドバイスは惜しみませんし、可能な限り学生と一緒にフィールドを訪れたいと思っています。

総合HP教員紹介ページ/
都市環境学部 地理環境学科 鈴木 毅彦 教授(すずき たけひこ)

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