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2023.02.20
授業潜入レポート Vol.3

全学共通科目 教養科目群 “フランス語圏の文化”

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大学での授業スタイルは高校までとは大きく異なりますが、実際にイメージするのは難しいかもしれません。そこで今回は、主に1年生が履修する全学共通科目 教養科目群「フランス語圏の文化」(人文社会学部提供)に潜入。担当教員の西山先生と同学科1年生の金藤さんに、授業内容や魅力を聞きました。

キービジュアル
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フランスを知り、日本を見つめ直す

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人文社会学部 西山 雄二 教授

神戸市外国語大学国際関係学科からパリ第10大学を経て、一橋大学大学院言語社会研究科博士課程修了。東京大学特任講師などを務めた後2020年より現職。

Q.授業内容や目的を教えてください

フランスに関する最低限の事情を知るために、多角的に情報提供を行うオムニバス形式の授業です。「教育」「家族」「女性」「原子力」「社会運動」「外国語学習」「右翼と左翼」「移民」「美術」「食文化」「観光」という多様な切り口でフランスでの“現象”を紹介します。これらのテーマに対して日本人はどう考え、日本社会がどう対応しているかなど、学生が“自分事”として日本を見つめ直すきっかけにしてほしいと考えています。例えば、原子力の問題は既に日本でも盛んに議論されていますし、今後日本でもクローズアップされるであろう移民の問題や、デモやストライキといった社会運動など、社会に出るまでに一度はじっくりと考えておくべきテーマをセレクトしています。また、学生が自分の頭で考える習慣づくりに向けた入門的な授業ですので、それぞれのテーマを学生が身近に感じられる工夫も大切にしています。例えば、私が実施したフランス人へのインタビューや、有名な映画のシーンなどを素材に、1年生でも理解できる10分程度の資料動画を編集して提供し、予習に役立ててもらいます。

Q.学生のどんな変化や成長が期待できますか?

日本とフランスを比較して、「どちらが優れている、どちらが遅れている」といった考えに至ってほしいわけではありません。例えば「教育」について言えば、日本の大学の授業料は高額。給付型の奨学金制度はあるものの、貸与型では卒業後の返済に苦労する人も少なくありません。その点フランスでは、大学の授業料はごく低額。教育を受けることが「権利」とされているからです。背景にはフランスの歴史に根ざした価値観や思想がありますが、まずは日本との表面的な違いを正確に把握することが肝心です。そのため、私一人が淡々と講義をするのではなく、都立大で学ぶフランス人留学生に“学生目線”で日本とフランスの違いを話してもらう時間を設けています。また、「外国語教育」を仕事としているゲストスピーカーを学外からお招きすることもあります。いずれも質疑応答の時間がありますので、学生には積極的に質問してほしいですし、質問したいことを考えながら話を聞くことが大切であると日頃から説いています。

Q.学生の成果はどのように評価していますか?

情報を得るだけなら本を読めば済む話ですので、そこで終わらせるのではなく、基本的に毎回授業の翌日中を期限としてコメントを提出してもらいます。コメントで重視しているのは、書き方の形式。例えば、導入部分で「問い」を設定し、「事実」を挙げて「分析」をしてから自分の「見解」を示す形式。各段落の冒頭に最も伝えたい一文を書き、「例えば」「なぜなら」とつなげていく書き方もあります。また、事実から抽象的な要素を抽出した上で、ほかの具体的な事象に当てはめて分析を深めるパターンもあります。こうした形式に沿った書き方を意識することで、ロジカルに考える力も高まっていくのです。内容に加えて形式も含め、履修者約300人分を全てチェックし、5点満点での点数を次の授業までに通知。優秀なコメントは授業の冒頭で紹介しますので、それを参考にしてその日のコメントに活かしてもらいます。コメントは全授業が終わった後まとめて返却するので、初期のコメントから見返すことで自分の成長を実感できるはずです。文章をきちんと書くことができる能力は、人文社会学部に限らず、あらゆる学部の学生にとって重要ですし、実際に毎年全学部の学生が履修しています。“物知り”になるだけではなく、書く力の向上も含めて学生の成長に責任を持って運営していますので、教室でお会いできることを楽しみにしています。

受講した学生にお話を伺いました

金藤 昭若さん(人文社会学部 人文学科 1年)
金藤 昭若さん

学生は授業を通して、”自分事”としての日本社会をどのように考えたのでしょうか。
この授業を受講する1年生の金藤さんに履修したきっかけや身に付いたことを伺いました。

Q.「フランス語圏の文化」を履修したきっかけを教えてください。

私はフランス近代のクラシック音楽や、ジュール・シュペルヴィエルなどのフランスの詩人が好きなのですが、読んでいる詩は日本語訳。そこで、原文でしか味わえない世界観や、背景にある歴史や文化を知るために、「フランス語圏の文化」のほか「フランス語初級」も履修しています。

Q.この授業の魅力を教えてください。

西山先生は、有名な曲の歌詞や映画のセリフなど、学生にとって身近な題材を使って、フランスや日本に関するスムーズな理解を後押ししてくれます。また、コメントの書き方も丁寧に指導してくれるので、ほかの授業でのレポート作成にも役立つ技術が身に付きます。

Q.授業で印象深いテーマや、得られた成果を教えてください。

私は新潟県出身で、柏崎刈羽原発が身近でしたが、地元ではその賛否を語ること自体をタブー視する空気がありました。授業では電力の約70%を原発に依存するフランスの実情と多様な考え方を知り、自分の考えを再構築するきっかけにできました。

取材を終えて(2022年11月28日の講義に潜入!)

「知る・書く・考える」のサイクルが定着

取材を終えて
フランスに関する多彩な情報を「知る」ことができ、それをもとにコメントを「書く」ための方法を学ぶことで、論理的に「考える」プロセスが内面化されていく。暗記に終始しがちだった高校までの勉強方法から脱却し、大学ならではの学び方を身に付けることで、その後の専門的な研究活動にも有効な資質が磨かれていく授業だと感じました。しかも、授業の演出にも“こだわり”があり、授業の最初には流行の曲を流して学生をお出迎え。自他ともに認める“風変り”な“名物”教授による、魅力満載の授業でした。

総合HP教員紹介ページ/
人文社会学部 人文学科 フランス語圏文化論教室 西山 雄二 教授(にしやま ゆうじ)

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