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2022.11.30
気になる!キャンパス施設探検隊! Vol.2

南大沢キャンパス “虫博士”と楽しむキャンパス散策

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都立大・南大沢キャンパスにある松木日向緑地には、様々な虫が生息しています。そこで今回は、理学部生命科学科の吉田助教と菊地特任研究員に緑地内の生き物についてご説明いただいたほか、同じ動物系統分類学研究室の江口准教授にもお話を聞きました。

キービジュアル
吉田 貴大 助教
今回、ご登場いただく先生は...
吉田 貴大 助教

理学部 生命科学科 動物系統分類学研究室 吉田 貴大 助教

大阪府立大学生命環境科学部緑地環境科学科卒業後、九州大学生物資源環境科学府昆虫学教室博士課程修了・博士(農学)。九州大学生物的防除研究施設学術研究員や愛媛大学ミュージアム学振特別研究員などを経て、2021年4月より現職。専門は隠蔽環境の小さな甲虫。特にヒラタムシ上科の分類・系統・進化。

都内の駅チカの大学でありながら、豊富な虫たちを間近で研究できる豊かな自然環境が魅力です。

 南大沢キャンパスの南側に広がる松木日向緑地の広さは、約13ヘクタール。私の専門である分類学では、新たな種が発見されると「新種」と呼ばれ「学名」が与えられますが、学名がまだない「未記載種」を含めた多くの虫が生息している点が、松木日向緑地の魅力。学生は生物の多様性を肌で感じることができるため、研究環境としても教育環境としても恵まれています。
 私は物心ついたときには虫が大好きで、幼い頃は、いわゆる“新種”を見つけることに魅力を感じました。虫は種類が多いため、教員にしても学生にしても好みは千差万別。私が現在、特に興味があるのは、全ての生物種数の約4分の1を占める「甲虫」です。特に隠蔽環境の小さな甲虫は一見しただけでは名前も分類群もわかりにくいですが、そんな甲虫たちの“生き様”をもっと知りたいという思いが、今でも私の研究の最大のモチベーションになっています。学生にとっても、都立大は豊かな環境下で経験値を高められる絶好の環境だと思います。

「虫が好き」。何よりもその想いを大切にして虫の研究にチャレンジしてほしい。

 私の専門は、松木日向緑地にも生息するホソヒラタムシ科の甲虫を中心とする、微小甲虫の分類や系統、生態です。また、お米などを保管しておく倉庫内や食品工場などで見られる「貯穀害虫」も研究しています。なぜ雨も降らず乾燥した環境下にある倉庫で生きていけるのか、また、枯れ木の樹皮下や枯葉の上で生活するために形態や生態をどのように変化させたのか、それらの環境への適応過程を解き明かしたいと考えています。
 自然界にどのような虫がいて、どのような進化を遂げ、どのような生態であるかを研究した成果は貴重な基礎資料となり、いずれ世の中に役立つ可能性も十分にあります。大切なのは「好き」を突き詰めていくこと。多くの謎に包まれた虫の研究には、胸躍る新発見の機会が豊富にあります。ぜひ都立大で一緒に研究しましょう。

吉田 貴大 助教
南大沢キャンパス “虫博士”と楽しむキャンパス散策

学生の実習授業でも訪れる松木日向緑地。動物系統分類学研究室の吉田貴大助教と菊地波輝特任研究員に実際に様々な虫を採集していただくことで、生物多様性の一端を感じることができました。

Point1
「オナガバチ」の一種

最初に出迎えてくれたのは、「ヒメバチ」の仲間である「オナガバチ」の一種。尻尾のように長く伸びているのは、産卵管です。ほかの虫に卵を産みつける寄生バチのため、相手を麻痺させる毒もありますが、人を刺すことはないといいます。なお、松木日向緑地では、過去に「未記載種」のハチが見つかったこともあります。

Point2
「セマルヒラタムシ属」の一種

木の枝を叩けば何かしら落ちてくるのが、豊かな自然環境を誇る松木日向緑地の魅力。このとき枯葉から落ちてきたのは、背中(上翅)に黒くて丸い紋様のある「セマルヒラタムシ属」の一種でした。

Point3
カドムネチビヒラタムシ

枯れ木の下や、樹皮の下で多く見られたのは、チビヒラタムシ科の「カドムネチビヒラタムシ」。樹皮下の狭い環境に適応して暮らすために、進化の過程で平たい形になっていったと考えられています。

Point4
ヤマモモの木

国際交流会館の脇にあるヤマモモの木では、丸まった葉を発見。葉の中にいるのは蛾の幼虫。これを主に「ドロバチ」が獲りに来て、巣に持ち帰ってしまうのだそうです。

Point5
観察する様子

サソリのように尾部を持ち上げる「シリアゲムシ」が飛ぶ様子や、木に穴を掘って生活する「カシノナガキクイムシ」も確認。夏には、低地で昔からの木々が残っていなければ見ることのできない珍しい「ヒメハルゼミ」を目にするチャンスもあるといいます。

Point6
アオズムカデ

土を掘って出てきたのは、体長10cm弱の「アオズムカデ」。土の中からは、ほかにも「イシムカデ」や「マクラギヤスデ」「コシビロダンゴムシ」なども見つかるといいます。

まとめ
観察する様子

ほかにも「ホソミツカドホソヒラタムシ」や「アカボシゴマダラ」、「ヒメマダラカモドキサシガメ」など、実に多くの虫たちと遭遇しました。動物系統分類学研究室の学生は普段、興味に応じて虫を採集して持ち帰り、実体顕微鏡での観察はもちろんのこと、必要に応じて走査型電子顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡といったハイスペックな機器も使用して体内の微細な構造を研究しているといいます。

動物系統分類学研究室

南大沢キャンパスの立地や特長を最大限活用している研究室を紹介します!

今回、ご登場いただく先生は...
江口 克之 准教授

理学部 生命科学科 動物系統分類学研究室 江口 克之 准教授

琉球大学理学部生物学科卒業後、鹿児島大学理工学研究科生命物質システム専攻博士後期課程修了・博士(理学)。長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野特任助教(GCOE)などを経て、2012年4月より現職。専門は、アリ類(昆虫綱:膜翅目:アリ科)や、その他の陸上節足動物の系統分類学、生物地理学。

南大沢キャンパスでジムカデ類の新種「カグヤヒメジムカデ」を採集。

 私は、マレーシアのボルネオ島や、ベトナムを中心としたインドシナ地域でアリの分類学的な研究を進めた後、現在はムカデ、コムカデ、ヤスデといった多足類やクモを中心とした陸上節足動物の様々な分類群を研究対象にしています。形の情報だけでなくDNAの情報を用いて種を分類しています。時には、飼育下での交尾行動の観察も行います。
 最近、「ジムカデ」というムカデのグループの2つの新種を日本各地で見つけることもできました。そのうち「カグヤヒメジムカデ」は、日本各地から見つかっているものの、全てメスであり、単為生殖をしていると思われます。南大沢キャンパスの松木日向緑地でも採集済み。私たちの身近なところにも、名前のつけられていない種や生き様がわかっていない種がいるということです。
 土壌動物はまだまだ未解明のことばかり。分類を進めて名前をつけ、“分類体系”へと整理・集約することで、それぞれの虫たちの生き様や進化の歴史についても体系的な理解を深めていくこと、それが動物系統分類学教室の使命。生き様がわかってくれば、私たちの生活に役立つ“何か”を導き出せるかもしれないのです。

虫の系統や分類、生態を研究してきた成果が地域課題の解決に役立つケースもあります。

 虫は、ときに“害虫化”してしまうこともあります。例えば、八丈島で黒いアリが増えて困っているという話を聞き、サンプルを送ってもらったところ、外来種である「アシジロヒラフシアリ」だとわかりました。現地での分布調査では複数の集落で大繁殖していることが明らかになり、家の中に入り込んで配電盤や家電製品を故障させる被害が出ていました。またアシジロヒラフシアリは、ガードレールなど、人工的な構造物に沿って森林にも分布を広げていく可能性も考えられました。そこで、2020年に八丈町、都立大、森林総合研究所が共同で「アシジロヒラフシアリ対策事業」を立ち上げました。研究成果をもとに2021年には独自開発の防除プログラムを運用開始。森林に生息する固有種への影響を抑えながら、拡大を防ぐ対策を進めています。
 このように動物系統分類学教室では「分類学の研究」をとおして「教育」を行いながら、「地域社会の課題にも貢献できる分類学」を目指しています。虫に関して深く学び、未知の種や生命現象を自ら発見できるチャンスが、身近にもたくさんあります。学生のみなさんも、まずは身近に暮らす小さな虫たちの多様な生き様を観察してみてください。

動物系統分類学研究室

系統分類学を研究する江口准教授と吉田助教のグループと、動物行動学の研究グループによって構成される動物系統分類学研究室。江口准教授は、アリ・ハチなどの昆虫類、クモ、ムカデ、ヤスデなどの分類を専門とし、未記載種を含めた種の多様性、系統進化の過程を研究しています。東南アジア諸国の学生を中心に、積極的な留学生の受け入れと研究指導を行っている点も特徴です。吉田助教はホソヒラタムシ科を中心に、隠蔽環境に生息する小さな甲虫の分類学的基盤構築を推進。甲虫の多様性がもたらされた経緯を解き明かす重要な鍵となる“隠蔽環境への適応”に着目し、進化学的な研究にも取り組んでいます。

動物系統分類学研究室

総合HP教員紹介ページ/
理学部 生命科学科 江口 克之 准教授(えぐち かつゆき)
理学部 生命科学科 吉田 貴大 助教(よしだ たかひろ)

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