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2022.03.24
私の研究最前線 シリーズVol.3

世界で初めて地球磁気圏の全貌がX線で明らかになる!

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新たに発表された研究成果をもとに研究の魅力や醍醐味について語ってもらうシリーズ企画「私の研究最前線」。
第3回目は、X線天文学に関する研究課題が、格段に優れた成果が期待されるものとして日本学術振興会の「特別推進研究」に採択された、理学部物理学科の江副祐一郎先生にお話を伺いました。

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江副 祐一郎准教授
理学部 物理学科 江副 祐一郎准教授

東京大学理学部物理学科卒業後、同大学院理学系研究科物理学専攻にて博士号 (理学) 取得。JAXA宇宙科学研究所 日本学術振興会特別研究員や理化学研究所 基礎科学特別研究員を務めた後、首都大学東京理工学研究科物理学専攻助教を経て2013年より現職。

Q.先生が宇宙分野に進んだきっかけと、専門領域を教えてください。

惑星を取り巻くX線の解析によって太陽系の謎を解明する研究を進めており、「太陽系X線天文学」という新しい学問分野の確立を目指しています。例えば、日本が2005年に打ち上げたX線天文衛星「すざく」が観測した10年間分のデータ分析を進めながら、木星や火星、そして地球周辺でのX線の分布や動きを世界に先駆けて研究してきました。
その原点は、子どもの頃に科学雑誌の『Newton』などを読んで宇宙分野に興味を持ったこと。中学高校時代には、将来的に宇宙を専門的に研究したいと考えるようになりました。大学入学後は、化学反応の理論性などにも惹かれましたが、やはり宇宙に関わる授業が興味深く、電波天文学の研究室でゼミナール参加。天体物理と衛星開発を学びました。
世界における宇宙研究は、1962年にX線を用いた宇宙観測がスタートして以来、新たな銀河団の発見などの成果が生まれていきました。ダークマターなどの新種の天体現象の証拠も発見されるなど、宇宙研究の可能性が広がっていったのです。私が大学在学中には、日本でも「あすか」というX線天文衛星が打ち上げられ、大学院に在籍していた頃にも、当時“次世代型”と呼ばれたX線天文衛星が次々に打ち上げられ、私の探究心は大いに刺激されました。
そして近年は、コンピュータ技術が飛躍的に発展。宇宙研究にもたらされる恩恵も大きく、精密なデータが大量に取得できるようになっています。こうしてX線天文衛星による宇宙観測が活発化すると同時に、研究内容が多様化する中で、私はX線の専門的な研究を進めてきました。

JAXAのX線ビームラインで都立大の GEO-X 用望遠鏡試作品を試験している様子
JAXAのX線ビームラインで都立大の GEO-X 用望遠鏡試作品を試験している様子

Q.これまでにX線天文衛星によってどのような発見があったのでしょうか?

太陽以外の天体から次々とX線放射が見つかっており、その発光メカニズムまで判明してきています。
例えば木星には、地球の500〜1000倍という巨大な磁気圏が形成されており、太陽風の侵入を防いでいます。ただし、地球と同様に太陽風の一部が磁気圏に進入することで、高エネルギー粒子が発光し、そこからX線が発見されています。
一方で、火星は地球や木星と比較すると磁場が弱く、プラズマ流が進入しやすい特徴があります。すると、太陽風や紫外線によって蒸発した大気とプラズマ流が衝突し、このときに起こる電荷交換反応と呼ばれる現象によってX線が放射されることが判明しています。
このように、太陽系には太陽風によって引き起こされると考えられるX線現象が数多く存在し、その要因の分析を深めていくことで、太陽系環境の実態や、太陽とその他の天体との相互作用もわかっていきます。さらに、宇宙プラズマ現象を理解することは、宇宙空間で起きてきた元素合成のルーツや経緯、高エネルギー粒子起源の解明にもつながるのです。

都立大を中心として独自に開発し、GEO-X への搭載も予定されている望遠鏡
都立大を中心として独自に開発し、GEO-X への搭載も予定されている望遠鏡

Q.では、今回日本学術振興会に採択された研究課題について教えてください。

まず、地球の高度1000 km から数万 km のエリアには、太陽風と地球磁場で形成される地球磁気圏が広がっています。太陽風とは、太陽が起こす高エネルギー現象であり、秒速数百kmに達するプラズマ現象です。太陽風は地球の磁場がバリアとなることで地球の磁気圏には入ってきませんが、強力な太陽風の一部が磁気圏に侵入し、宇宙飛行士の健康に悪影響を及ぼすほか、地上の発電所をダウンさせるケースもあります。また太陽風は、オーロラを出現させる要因でもあります。
その中で、とりわけ太陽風による悪影響の予防に向けて掲げたのが、「X線で挑む地球磁気圏のグローバル撮像」という研究課題。これが日本学術振興会の科学研究費助成事業(特別推進研究)に採択されました。目的は、宇宙における地球磁気圏の大局的な構造を明らかにすることです。
というのも、X線天文衛星による宇宙観測や地上観測の高感度化に伴い、地球磁気圏の理解は深まってきたのですが、あくまでも1地点の詳細なデータから大局的な様相を“類推”しているのが実情です。そこで求められるのが、地球からより離れた場所で、より高感度な装置を使って観測すること。本研究では、月と同等程度の高度からの俯瞰的な観測を実現するために、50 kg 級の超小型衛星を開発するとともに、その超小型衛星に搭載できる範囲で限りなく高感度な観測を可能にするX線撮像分光装置を開発しています。この計画を GEO-X (GEOspace X-ray imager)計画と呼び、早ければ2023年度頃の打ち上げを目標にしています。地球磁気圏の外からX線を用いて地球の磁気圏を観測し、地球磁気圏の構造を可視化しようとする世界で初めてのチャレンジです。
現在、太陽風の情報は「宇宙天気」として公的機関も発信しています。今後、GEO-X計画で地球磁気圏の全貌を明らかにできれば、磁気圏がどのように太陽風に応答しているのかがわかります。そうなると、宇宙ステーションや月での滞在、さらには人類が火星にも進出しようとする中で、宇宙空間で受ける太陽風の悪影響に対して、予防方法を検討しやすくなるのです。

GEO-X 計画で打ち上げる人工衛星のイメージと観測シミュレーション
GEO-X 計画で打ち上げる人工衛星のイメージと観測シミュレーション

Q.先生の原動力や、研究のやりがい、醍醐味を教えてください。

GEO-X計画をはじめとする研究開発は、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)や他大学、さらには海外との協調・協力も重要である一方、競争するからこそ進展していくものです。研究者間のつながりも密接ではありますが、根底にあるのは、一人のサイエンティストとして、自分の力で世界初を実現させようとする意欲、熱意です。私の場合は、木星探査まで思いを巡らせています。そのためにはさらに装置を小型化しつつ性能を落とさないようにしないといけません。
GEO-X計画は、JAXAや東京大学などとの共同で進めており、都立大が担うのは望遠鏡の開発です。実際のものづくりから物理的な実験、観測シミュレーションまで、学部生や大学院生と協力しながら進めています。思うような結果が出ない実験結果に苦心する場面も少なくありませんが、一つひとつ着実に装置が完成させていく喜びや楽しさを感じられますし、自分たちで設計し、つくりあげたものが宇宙空間に飛び立っていくところに研究のやりがいと醍醐味があります。そして、世界で初めて明らかにできることがあるという期待感や使命感を胸に、「都立大で開発した望遠鏡でしか達成できないことを成し遂げよう」と、日々努力を重ねています。
都立大は研究環境としても恵まれており、国内有数の試験装置を保有するほか、JAXAの相模原キャンパスに近いという地の利もあります。東京都からの支援にも助けられていますし、周囲に自然が多いため心が和み、リラックスして研究に臨めています。学生も高い志を持って研究に取り組み、研究室のメンバーのほとんどが大学院まで進んでくれています。

Q.これから宇宙分野への挑戦を目指す学生や受験生にメッセージをお願いします。

現在開発している望遠鏡は、10年前に比べれば桁違いのパフォーマンスを誇り、かつ小型化が進んでいます。そのため低コストで開発でき、これまで国が大規模な予算で主導してきた宇宙開発にチャレンジできるチャンスが広がっているということでもあります。この先、日本で人工衛星の打ち上げ頻度が高まっていけば、みなさんが設計してつくりあげた装置で宇宙観測が行われ、人類に貢献する将来も決して夢物語ではないのです。
私の研究室に所属する学生の多くも、装置づくりをはじめとして、ゼロからのスタートになりますが、もちろん真面目に取り組んでいけば何も問題はありません。シリコン基板に微細な加工を施した高解像度の「超軽量X 線望遠鏡」は、2019年にJAXAの「宇宙科学技術ロードマップ」で『獲得すべきキー技術』のひとつに選ばれた実績もあります。これに限らず、観測計画やミッションを自ら考案し、そのために必要な装置を取捨選択して設計、製造していくための思考力や行動力も高まります。さらには、打ち上げ環境を想定した振動試験や、宇宙空間を想定した放射線試験などを、JAXAをはじめとする外部機関と連携して経験しながら、日に日に専門性を高めてくれています。
この分野を目指すなら、願わくば物理と数学はしっかりと学んでおくこと。宇宙の理解には、基本的な物理法則を使うことが不可欠だからです。英語力もあれば望ましいですが、意欲があればなんとかなりますので、ぜひ熱意を持って宇宙分野の研究にチャレンジしてみてください。

観測の実現が期待される地球磁気圏のイメージ
観測の実現が期待される地球磁気圏のイメージ
江副 祐一郎准教授
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