塚本 真悟さん(カリフォルニア大学バークレー校 大学院機械工学専攻博士課程)
本学を卒業し、社会で活躍する先輩の皆さんにお話をうかがうシリーズ企画「卒業生は今…!」。在学時代の学びや学生生活、大学での経験と今のお仕事とのつながりなどを紹介します。
塚本 真悟(つかもと しんご)
首都大学東京 システムデザイン学部ヒューマンメカトロニクスシステムコース(当時)卒業後、東京都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域博士前期課程修了。2021年8月よりカリフォルニア大学バークレー校大学院機械工学専攻博士課程に在籍。
工学的な知見を医療に応用する最先端領域に挑戦し
難病に苦しむ人々の力になりたい
学部時代はどのような学生生活を送っていましたか?
幅広い学びに挑戦できる総合大学のメリットをフル活用していました。入学当時は自分の将来像を描けていなかったため、システムデザイン学部に所属しながら、経営学や哲学なども履修し、学部の垣根を越えて知識を広げました。自分が本気で力を注げる分野を見つけたかったからです。当時は明確な目標がなかなか見つからず、学業へのモチベーションを保てない時期があったことも確かです。
転機は大学3年次、国が難病に指定している「好酸球性消化管疾患」だと宣告されたことです。自己免疫系の病気で原因は不明。当然ながら治療法も確立されておらず、医学の限界を目の当たりにしました。それと同時に沸き上がったのが「同じ病に苦しむ人の力になりたい」という想い。そのためには学びの中心にあった機械システム工学を医療に活かす道を切り拓きたいと考えました。研究室で“医工”を横断するテーマに取り組んでいた私は、工学を医療につなげる研究を深めようと大学院への進学を決意しました。
そのまま都立大の大学院に進学したのですね?
実は医学部のある大学の修士課程にも合格したのですが、あくまでも学部で培ったスキルをベースにして生命科学にアプローチしたいと考え、都立大の大学院で「メカノバイオロジー」を研究しました。また、この研究に取り組むためには生命科学の知識が必要だと考え、大学院分野横断型プログラムの第1期生として生命科学の分野の勉強にも力を入れました。私の研究内容については、例えば、血管の収縮によって周囲の細胞に力が加わると、細胞核が変形してその生体の運命が変わります。その一例が癌化です。私はそのプロセスの解明に挑み、「局所の歪み解析法」を開発。2つの分野最高峰の国際学会に選出されたほか、『Journal of Biomechanics』という世界的な学会誌に論文を掲載することもできました。
また、難病をきっかけに「もっと世界を知りたい、知らなければならない」という意識も芽生えました。すると、指導教員の坂元尚哉先生は海外とのネットワークが豊富なこともあり、海外で研究を行う選択肢を示してくれました。そこで、まずは修士課程のうちに様々な国の研究活動を見ておこうと、シンガポール科学技術研究庁でのインターンシップや、ロンドン大学への短期留学に参加し、カリフォルニア大学バークレー校にも6か月間留学しました。シンガポールでは、国外の機関と活発に連携し、専門の異なる研究者が団結して共同研究に励む様子に衝撃を受け、自分もその一員になりたいと思いました。難解なテーマに挑むからこそ、知見を結集させる共同研究が重要だと考えたからです。
そして、私の次の一歩を決定づけたのは、都立大で開催されたシンポジウム。カリフォルニア大学のモフラット先生のプレゼンテーションに心を動かされ、「この先生のもとで研究するんだ」と決意しました。モフラット先生が描くビジョンは、細胞核のメカニズムを工学的に探究する「メカノバイオロジー」から、さらに医学に応用させる「メカノメディスン」へと発展させること。私が最も興味を持っている研究テーマです。
目指すはメカノメディスン分野をけん引する研究者。
その使命感が私を突き動かす原動力に
現在はアメリカを拠点にされているのですね?
2021年8月からカリフォルニア大学バークレー校の博士課程に進み、自己免疫系の難病を引き起こすメカニズムの解明と、病気の制御や創薬につながる「メカノメディスン」分野の研究に力を注いでいます。難病は研究者も研究費も、リソースが足りないがゆえに難病のままであることが多いのが事実。私自身がこの分野をけん引する研究者へと成長し、効果的な情報発信によって認知度を高め、リソースの確保や共同研究の促進などを実現させたいと考えています。私を突き動かすのは、世界トップレベルの研究者でなければならないという使命感です。
最後に後輩や受験生へのメッセージをお願いします。
実は私、大学1年次のTOEIC®スコアは400点にも達しなかったほどです。ただ、目標が見つかり、モチベーションが高まれば何とでもなると思うのです。一方、留学は経済的な負担もありますが、都立大にはさまざまな奨学金制度がありますし、国際課に行けば、利用できる制度などを丁寧にアドバイスしてもらえます。将来像が見えていない人は、世の中にどのような挑戦すべきテーマがあるのかという情報が足りていないだけ。学生時代に多様な経験をして、そのときに情熱を注ぎたいと思ったことに全力で打ち込むことで、自分が歩むべき道は見えてくると思います。その点、都立大は幅広い学びにチャレンジできるチャンスが豊富。教職員は親身に学生を支えてくれますので、恵まれた環境を最大限有効活用してほしいですね。