東京都立大公式WEBマガジン
2021.09.15
シリーズ 卒業生は今…! Vol.3

片山 瑳紀さん(「京楽堂」消しゴムはんこ作家)

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本学を卒業し、社会で活躍する先輩の皆さんにお話をうかがうシリーズ企画「卒業生は今…!」。在学時代の学びや学生生活、大学での経験と今のお仕事とのつながりなどを紹介します。

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片山 瑳紀さん

片山 瑳紀(かたやま さき)
「京楽堂」消しゴムはんこ作家。東京都出身。2016年に首都大学東京 都市教養学部都市教養学科理工学系 生命科学コース(当時)卒業。「京楽堂」を屋号とする消しゴムはんこ作家として活躍中。

偶然から生まれ、生物学の学びが深まるにつれ
作品づくりの方向性がより明確になっていきました

消しゴムはんこ作家となった経緯を教えてください。

中学時代に友人と文房具を見せ合っていた際、友人の小刀が偶然私の新品の消しゴムに刺さってしまい、捨ててはもったいないので、その場で小刀を借りて彫ってみたことが始まりです。その彫る感覚が好きになり、趣味というか時間つぶしで続けるようになったんです。中高一貫の女子校だったのですが、高校に入る頃には腕も上がり、高校2年次には「消しゴムはんこ同好会」を立ち上げ、趣味からランクアップしました。
また、小中高を通して好きだった科目が理科と美術。理科は特に生物が好きで、消しゴムはんこのモチーフは自然と生き物が中心になりました。理科の先生から「授業で使いたい」と言われ、ゾウリムシやミジンコなどを彫ることもありました。市販品にはない自由でおもしろいはんこづくりが純粋に楽しくて、だからこそ現在につながっているのだと思います。

大学時代もずっと続けていたのですか?

入学当初は専攻の生物学の勉強に注力し、消しゴムはんこは再び趣味のレベルに戻りましたが、友人のすすめもあって作品を紹介するTwitterを開設。すると、さまざまなハンドメイド作家さんとつながることができ、私もイベントに出展するなど、作家として活動が少しずつ活発になっていきました。
その際に意識したのは、自分が専門的に学ぶ生物学と消しゴムはんこの共通性です。はんこは同じ絵柄を何回も捺して複製物をつくっていけるもの。生物学でも細胞が分裂をして増えたり、クローンを生み出すこともでき、親和性があると感じました。
ただ、私が勉強していたシアノバクテリアなどの微生物は、顕微鏡をのぞけばとてもキレイで、形状や色、性質などが非常に興味深いにもかかわらず、「ばい菌」のようなネガティブなイメージが先行しがち。そこで、消しゴムはんこを活用して、生物学を身近に感じてほしいと考え、微生物をモチーフにした消しゴムはんこづくりに突き進んでいきました。
また、例えば浅瀬でしか生きられない魚と、深海にしか生息しない魚のはんこが並んで捺されていたとしたら、「それは現実的にはあり得ない」と否定するのではなく、どうすれば共存できるのかを想像する出発点にしてほしいとも考えました。

大学では、どんな点で成長できたと思いますか?

在学中は、積極的に周囲とコミュニケーションを取ることを心がけましたが、学生と教員との距離が近い首都大の環境もあって、先生方に上手に質問するスキルが磨かれました。入学当初は何か不明点があっても、どう質問していいのかさえわからなかったのですが、自分が理解できていないポイントを見極めた上で、的確な質問を投げかける能力が徐々に鍛えられて行ったんです。その経験が、現在に至る人脈づくりに活かされていますし、スムーズでフレンドリーなコミュニケーションができるようになったことにもつながっています。

片山 瑳紀さん

基礎研究の魅力・価値を広く、わかりやすく
伝えていくチカラになりたい

普段の作品づくりについて教えてください。

心がけているのは、顕微鏡をのぞき込んだ際の見え方を再現すること。まずは下絵を描いてデザインを決め、それを転写して彫り始めます。彫ること自体は慣れているので短時間で済む一方、最も時間をかけるのは下絵づくりです。微生物のはんこなら生物学上の性質を入念に調べ、プレパラートのはんこなら、インターネットでの画像検索や文献でのチェック、博物館などでの情報収集などを行い、アンティークなプレパラートをモチーフにした際には、構想だけで1か月ほどかかりました。
なお、現在は合同会社という形態をとり、イベントなどでの対面販売に加え、通信販売も強化しています。また、定番商品の販売だけでなく、オーダー品も積極的に手掛け、収益モデルの拡充に努めているところです。私の商品を一番長く取り扱ってくれているのは、相模原にある海福雑貨というお店。在学中の雑貨屋さんめぐりで私が一目ぼれして、私が熱烈にアプローチしたお店です。

花や草の消しゴムはんこ
花や草の消しゴムはんこ。ノートには試作品用のはんこがたくさん捺されている
写真右:「感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学」羊土社、増澤 俊幸著)写真左:『The Journal of General and Applied Microbiology』 (JGAM)
表紙のデザインに採用されることも。写真右:「感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学」羊土社、増澤 俊幸著)
写真左:『The Journal of General and Applied Microbiology』 (JGAM)

今後の目標を聞かせてください。

生物学と美術の架け橋になるような消しゴムはんこ作家をめざしています。昨今は研究成果の可視化・ビジュアル化が求められていますが、生物学などの基礎研究は社会にどう役立つのかがわかりにくく、そもそも注目されにくいのが現実。私自身は基礎研究に魅力を感じて首都大に入学しました。だからこそ、消しゴムはんこを通してその素晴らしさを広く、わかりやすく発信して行きたいと考えています。
受験生や学生には、生物学に限らず、日常生活のいろいろなことに興味を持ち、疑問を持ち、調べる習慣を見に付けてほしいと思います。私自身、その疑問を解消するために、これからも消しゴムはんこで貢献できたらうれしいですね。

「京楽堂の消しゴムはんこコレクション 星屑のかけらを彫る」主婦の友社、京楽堂著
消しゴムはんこのコレクション本を出版(「京楽堂の消しゴムはんこコレクション 星屑のかけらを彫る」主婦の友社、京楽堂著)
個展情報

今回取材した片山さんの個展が開催される予定です。ご興味をお持ちになった方はぜひ足を運んでみてください!

『一攫閃菌』
場所:サイト青山(青山一丁目駅5番出口より徒歩5分)
http://site-aoyama.air-nifty.com/
期間:2021年10月9日(土)〜11日(月・祝)
時間:11:00〜19:00(最終日は16:00まで)

個展情報詳細・お問い合わせはTwitterアカウント「https://twitter.com/kyouraku_stamp」まで

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