2021.04.14
突然ですが、お話聞かせてください! Vol.1
大学で学ぶ≠教えてもらう
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広報担当が教員や学生にお話を聞きに行くWEBマガジンの新企画「突然ですが、お話聞かせてください!」
第1弾は、法学部の桶舎典哲先生にお話を伺うことにしました。
今回、お話を聞かせていただいた先生は
法学部法学科 桶舎 典哲(オケシャ フミアキ)教授
1997年、筑波大学大学院博士課程社会科学研究科法学専攻単位取得退学、修士(法学)。2004年東京都立大学法学部着任。専門分野は民法。クレジット取引や債権回収、金利規制等を研究テーマとする。主な著書に、共著『現代法と法システム』(2014年、酒井書店)「金利規制か取立規制か――序・不当な取立行為が不法行為を構成することの意味――」ほか。
1st Day/死亡した預金者の口座について、先生から問題提起
広報職員
突然ですが、桶舎先生の専門分野であるクレジット取引、消費者信用取引について、日常生活で感じる疑問についてお伺いしたいのですが。
桶舎先生
そのような疑問は弁護士や消費生活センターが詳細に情報提供をしているし、場合によっては“なぜですか”という問いに答えが用意できないものもあります。それよりは、学生が自分で感じた疑問に対してどのように答えを探すべきか、『大学での学び』についてお話しするのはどうですか?
広報職員
大学での学び、ですか?
桶舎先生
大学での学びは、高校生までの学びとは異なり、自分で考えて学ぶ、ということが大切になります。ただ、知識を教授されるだけではなく、得た知識をもとに自分でまた疑問を見つけ、その答えを探求し、またその過程で新たな疑問を見つけ考える…という繰り返しです。私は、自分で考え続けるということができるよう、答えを教えるのではなく、導くためのサポートやアドバイスを行っています。ただ、そのことがまだわかっていない方は、『大学で教えてもらえなかった』と、本当の学びを体験できないままに卒業してしまうこともあるので、この機会に伝えられれば、と思っています。
広報職員
大学での学びを伝える…とてもいいですね!
桶舎先生
では、あなたが学生役になって、大学での学びを体験してもらいましょう。例えば、銀行預金って、本人が死亡すると口座を凍結する銀行が多いのですが、しない銀行もあるんです。どうしてだと思いますか?
広報職員
え、どういうことですか?
桶舎先生
では、あなたが銀行員だとして、家計を担っていたご家族を亡くされた遺族が、支払いに必要なお金のために預金を引き出したいって言ってきたら、どうします?
広報職員
正直、遺族だという証明ができれば引き出してもいい!って言いたくなりますけど…。
桶舎先生
あなたの注意は、どこに向きますか?
広報職員
もし、お金を引き出せなくて支払いができなかったら、ご遺族は大変だろうなぁと。
桶舎先生
そうですねぇ。そう考えれば、凍結せずに遺族に支払ってあげたらよいですよね。
広報職員
ですよね!
桶舎先生
では、金融機関が死亡者の預金口座を凍結しようと考えるのはなぜだと思いますか?
広報職員
…………。
桶舎先生
……………。
桶舎先生
この話の続きはまた今度にしましょう。今日のところはこれで。また連絡してください。
広報職員
え…(教えてくれないの?)。わ、わかりました…ではまた、お願いします。
2nd Day/疑問について考え、答えを探すことの楽しさに気が付く
広報職員
あ、桶舎先生。先日はありがとうございました。
桶舎先生
あぁ、この間の…。それで、何か見えてきました?
広報職員
見えてきた…ですか?
桶舎先生
そう、意見が違うのは、ものの見方が違うから。だから、先日と違ったものが見えてくれば、違った考えにもたどり着けますよ。
広報職員
なるほど…。あれから考えてみたのですが、例えば、家族もしくは親族の中に悪いことを考える人がいて、本来はその人は相続しないのに相続したことにして銀行に来ていても、銀行員にはわからないなぁと思いました。相続ってもめることもあると聞いていますし…。
桶舎先生
なるほど、そうですよねぇ。ほかには?
広報職員
ほかに…ですか。あ、でも、銀行で何かを手続きしたりするときには、銀行印など証明を求められることが多いので、今回についても何か物的な証明が必要になるのかな、と思いました。
桶舎先生
じゃあ、あらためて前回の質問。あなたが銀行員だったら、死亡した預金者の口座から遺族が預金の引き出しに来たとしたら、窓口でどうしますか。
広報職員
これまでのお話を踏まえると、遺族だからといって預金の引き出しに簡単には応じない方がよい気がしてきました。遺族の方が何かの支払いをできなくなるのはかわいそうな気がしますが、相続のもめごとに銀行が巻き込まれるのは困りますから。
桶舎先生
うん、それならば、どうなったら預金の引き出しに応じられるようになるでしょうねぇ。
広報職員
…………。ほかの相続人の人たちが、了承してくれている証明を提出する、とかですかね。
桶舎先生
そう、だから金融機関の多くは、“遺産を遺族で分ける話し合いの結果、こちらの預金は私が引き継ぐことになりました”という証明を、預金の引き出しに来た遺族に求めるんですよ。
広報職員
あっ、そうなんですね。じゃあ、先生が最初に言っていた、凍結する銀行もあるけど、しない銀行もあるという話は、窓口に来た人のことを考えて、相続人であることが証明できれば支払う銀行もあれば、あとで私が考え直したように、相続人であることの証明だけでは不十分で、その人が預金を相続することになったという遺族間の話し合いの決着がつくまで支払いに応じない、つまり凍結するというところもあるのですね!
桶舎先生
そう、そのとおり。ちなみに最高裁判所は昭和の中頃から、つい4年ほど前まで、前者の考え方を採っていました。それに対して、多くの金融機関では、この間も後者の考え方を採って預金を凍結しています。
広報職員
えっ、裁判所の判決に従わなくてよいのですか?
桶舎先生
はい。預金者と銀行の関係も契約になるので、大抵のことは当事者間で決めたことが優先されます。
広報職員
そうなんですね! あれ、でも4年ほど前までは、ということは、裁判所も4年前に凍結する方向に考え方を変えたんですか?
桶舎先生
そうなんです。さらに、そのあと法律も改正されて2019年7月からは、相続人ならば遺産分割の前に、一定の範囲で預金の払い戻しを受けられるようになりました(民法909条の2)。
広報職員
えぇ! なぜ裁判所は大きく考え方を変えたんでしょう? 何か、きっかけがあったんでしょうか…。どうしてこのタイミングで法律に定めることにしたんだろう…。
桶舎先生
…ね、楽しくないですか?
広報職員
え???
桶舎先生
疑問について考えて、答えを探すのって楽しくないですか? さっきからどんどん疑問が湧いてきていると思いますが。
広報職員
確かに、楽しいかもしれないです…。久しぶりにわからないことについて、とことん考えた気がします。
桶舎先生
考えるっておもしろいですよね。どうしてだと思いますか?
広報職員
先生とお話ししていたら、実際がどうなっているかを知るのも大切ですけれど、なぜそうなっているか、という理由を探すことがおもしろいなぁと思いました。実際、家族の口座が凍結されたときに自分がどうしたらよいかの手がかりが見つかりましたし…。自分の知っていることが答えに繋がっていく感じや、自分で導き出したという達成感を得てワクワクしました!
桶舎先生
例えば、学校給食の献立って、児童の成長にとって最良の食事になっているはずですが、時間内に残さず食べなさいと言われると、なかなかおいしく食べることが難しいものですよね。なのに、いい年になってからときどき懐かしくなって、昭和の給食の献立を再現する食堂とかに行って食べると、ビックリするほどおいしくて、これ絶対当時のとは違うって思うんです。でも実は、違うのは調理されたものの中身じゃなくて、こっちの心持ちなんですよね。
広報職員
なんか…わかる気がします。自宅で出された料理でも、食べたいと思うものと、その気分ではないものとで、味わい方は全然違いますよね。そういうことじゃないですか?
桶舎先生
そう、だから食べることもそうですが、学ぶってことも、“自分の間合い”で進めることが、とても重要です。自分で考えて学ぶ自学自習の方が、学びの楽しさを感じられるし、身につき方が違いますからね。そして、それが長続きさせる条件でもあるんです。でも食欲は、放っておいても湧いてくるけど、知的欲求を湧かせるのには、少し仕掛けと刺激が必要です。 勘や閃きのようなその人のセンスが大きく影響する分野もあるけれど、絶対量としての時間を必要とする分野では、継続できる環境、とくに気持ち作りも大切になってきます。
広報職員
あ、ということは、先生が先日途中でいったん区切って後日、としたのにはそのようなお考えがあってのことなんですね。
桶舎先生
そこまで深く考えたわけではないのですが、先日は、話をあのまま続けてもつまらないと思ったから帰ってもらいました(笑)。
広報職員
それは、正解かもしれないです(笑)。そのおかげで楽しく考えることができました。
桶舎先生
それはよかったです(笑)。
広報職員
じゃあ…さっきお話しになっていた、2016年に最高裁判所の判決が変わったことについて、どうしてそのようになったのか、お伝えできるほどに考えがまとまったら、また突撃してもよいですか?
桶舎先生
おっ、じょうず。大学の教員への質問のしかたがわかってきましたね。
突撃を終えて
今回お話を伺って、「学び」についてあらためて考えるきっかけになりましたが、次に桶舎先生に突撃するときには、ちゃんと自学自習をしてから挑まなければ、と思う広報担当でした。
総合HP教員紹介ページ/
法学部 法学科 法律学コース 教授 桶舎 典哲(おけしゃ ふみあき)